芸能人の「結婚」はプライバシーかビジネスか

4日、東京地裁(笠井勝彦裁判官)は、バーニング・プロとその代表・周防郁雄が、『紙の爆弾』の記事により、信用及び名誉が毀損されて損害を被ったとして、発行元の鹿砦社と執筆者の本多圭に3300万円の損害賠償を請求した件について、バーニング、周防それぞれに110万円ずつ支払えと鹿砦社に言い渡した。

鹿砦社の松岡利康代表はこの事件、控訴することを決めている。

事件の対象となった記事は、『紙の爆弾』(2007年3月号)に掲載された「バーニングに結婚”させられた”藤原紀香と吉本興業の怒りは爆発寸前!!」という記事。バーニングプロに所属タレントの藤原紀香のプロモーションを委託するサムディ(要するにバーニング系事務所)と、吉本興業所属の陣内智則の結婚ウラ事情をレポートしたものである。

記事は、当時、紀香は陣内のほかにR&Bグループ「スクープ・オン・サムバディ」のボーカリスト、TAKEとも二股交際していたが、周防は売れない歌手よりも吉本の芸人のほうが将来性があると踏み、陣内との関係を週刊誌にリークして結婚するよう仕向けた。また、婚約記者会見の代表質問をバーニング・広報部長の愛人と噂される女性記者が担当したり、周防の独断で結婚披露宴の独占中継が日本テレビに決まったりと、バーニング主導である、といった内容である。

バーニング側は、代理人ののぞみ総合法律事務所がさっそく警告書を鹿砦社に送付。摘示事実が虚偽であり、バーニングの社会的評価を下げるものであるから、雑誌を直ちに回収して謝罪し、次号に訂正記事と謝罪広告を掲載するよう「警告」した。

鹿砦社は、警告書同様の書面は憲法21条の精神を蹂躙する脅迫状といわざるを得ず、警告書をそのまま本件雑誌に転載して広く読者の批判を仰ぐこととする旨、また『言論には言論で』の精神で本件雑誌に本件記事と同じ頁数でバーニングやのぞみらの反論を掲載することを提案し、周防に直接インタビューする方法でもいいと回答した。さらに、4月号では警告書を引用して「言論には言論で応えよ!!」と題する記事を掲載した。

同誌の中川志大編集長は、筆者にその真意をこう答えている。

「『警告書』によって訴訟をちらつかせ、批判封じを行う、という手法が芸能界にかかわらず、一般的になっています。メディア業界以外の方々からすれば、一見、『「書かれてしまったら終わりなのだから、「反論の機会を与える」といくら言っても、それはメディア側の土俵にのれと言っているだけだ』という印象を持つ方も多いと思います。しかし、資金力やその他『権力』を行使する、今回ならばバーニング側のやり口の方が、メディアにとって圧倒的に不利。
 だからこそ、メディアが萎縮せざるを得なくなるわけです。
 それに比べれば、バーニングが反論することは、全くの自由。むしろ、『暴露記事』なんかより大きな影響をもつでしょう」

しかし、バーニング側は、この対応が望むものではなかったようだ。訴状には、中川の対応を「警告書を紙面に記載し、原告らに対し、不当な不当な論難を与えたこと」としている。「言論には言論で」という鹿砦社側の対応が「論難」とは思えないが、とにかくその結果が今回の訴訟である。

訴状によると、バーニングが「全くの虚偽であり、何らの根拠もなく、憶測を超え、捏造としかいいようがない」としているのは以下の7点である。


1(バーニング社長の周防が)藤原紀香の意向を無視して婚約情報をリークし、そのため藤原が不信感を抱いていること
2婚約記者会見で代表質問したのはバーニングの広報担当が愛人としている女性記者であること
3婚約記者会見では、婚約相手である陣内智則の所属会社である吉本興業の意向を無視して吉本興業をコケにしたこと
4バーニングは、当事者や吉本興業の意向を無視してかなりの額の放映権料をもらうことで日本テレビに披露宴の独占中継の権利を与え、それを既成事実化するためにスポーツ新聞に情報をリークしたこと
5バーニングは、藤原の名前を売るために熱愛情報を流したこと
6バーニングは、マスコミに情報を流すなどして藤原が交際した男性と別れさせていること
7その根拠として周防と藤原は愛人関係にあること

バーニングにいわせると、記事が上記の7点から、「周防の意図により、タレントのプライバシーに属する恋愛を商業利用して本人の了解なく報道を流し、それによってタレントの交際を妨害するなど人道にももとるのみならずプライバシー等の人権を侵害するような会社」との印象を抱かせるとしている。

しかし、そこまで言い切ってしまうと厚かましさすら感じる。

そもそも「タレントの恋愛」は、芸能プロ、タレント双方の意図や自覚がどうあれ、「プライバシー」と単純に表現する発想が理解できない。恋愛に限らずタレントが人生の出来事を「商業利用」しないことなんてあるのか。もし、バーニングがこんなことを本気で述べているのなら、陣内との披露宴がテレビ中継され、特注の十二単姿の写真がマスコミにばらまかれた「慶事」をどう説明するのだろうか。あれを商業利用といわずに何というのか。

バーニング側の意図や自覚がどうあれ、結婚を発表して以来、藤原紀香はかつての「CM女王」が復活したのは確かだ。何しろ、結婚を発表する前はCMは一本だけ。テレビ朝日で主演したドラマ『だめんず・うぉ?か?』は平均視聴率8.1%(リサーチ関東地区)と惨敗。何一ついい所がなかった。それが見事に生き返ったではないか。

バーニングが結婚を「商業利用」したとしても、世間が同事務所を悪者としてみるとは限らない。これまでの多くの例を挙げるまでもなく、芸能人は自らの恋愛や結婚式すらも商売にする人たちというのは、むしろ世間一般の認識である。その段取りにおいて会社と所属タレント間に何らかの齟齬があったとしても、結論(恋愛、結婚式はビジネスになりうる)が一致している以上、今回ムキになって訴訟までする必要があるのか疑問である。

いずれにしても、大手芸能プロダクションのスキャンダル処理は、概して後ろ向きであると思う。ゴシップ記事が出たら、裁判という手段を含めてそれを否定したり押さえつけたりする。メディアに対しては、自分たちが考え出した、ありふれたギミックの忠実なスピーカーになりきることを求める。

もちろん、それに依存する御用マスコミが多いことも問題だが、芸能マスコミが創りだしてくれる、予想もつかないギミックを逆に利用するという発想があってもいいのではないか。

芸能人のゴシップ記事を裁判で排除していくことは、結局、そのファンタジー豊かな芸能人をみすみす「テレビに出ているだけの普通の人」に矮小化する行為にほかならない。

芸能界というのは、しょせん「素晴らしき欺きのビジネス」である。だから面白いのだ。格差社会といわれる昨今、法外な経常利益やギャラを得ているのが「普通の人」だったら、ファンの夢がしぼむどころか、応援もしたくなくなるだろう。

芸能人やスポーツ選手の覚せい剤や大麻事件については、『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)に背景や裁判の様子が詳しく書かれている。


芸能裁判研究班[編著]
鹿砦社刊
A5判/200頁/並製
定価1,500円+税

なぜか軽んじられる芸能裁判??本書は平成に入ってからの主な芸能裁判と採り上げ、詳細に解説を加えた初の試み。A級の史料的価値!! 岡留安則『噂の真相』編集長、文藝春秋法務部、日弁連「人権と報道に関する調査研究委員会」へのインタビュー収録。大衆ジャーナリズムの反映としての芸能裁判の持つ意味を究明!!大衆ジャーナリズムの反映としての芸能裁判の意味を本格的に解明する初の試み!!

【同書の内容】
■第一章 
人権(名誉棄損、肖像権など)
ジャニーズ事務所/デヴィ夫人/稲垣吾郎/花田勝/川崎麻世/大原麗子/藤田憲子/尾崎豊夫人/芳村真理/野村沙知代/和泉元彌/貴乃花親方

■第二章
金銭トラブル
ライジングプロダクション/野村沙知代/織田無道/佐久間良子/石川さゆり/島田楊子/泉ピン子/美川憲一/大西結花/松方弘樹/坂田利夫

■第三章
薬物事件
江木俊夫/槇原敬之/いしだ壱成/中島らも  ほか

■第四章
再犯・再々犯
克美しげる/豊川誕/田代まさし/翔(元横浜銀蝿)/西川隆宏(元ドリームス・カム・トルゥー)/藤井モウ(元大川興業)/岡崎聡子

■第五章
その他
梅宮辰夫/加勢大周/沢田亜矢子・松野行秀/鈴木亜美/千堂あきほ/萩原聖人/横山ノック/飯島直子/久保純子/清水国明/清水ひとみ/鈴木保奈美/せんだ光雄/そのまんま東/名高達男/原仁美/坂東玉三郎/堀ちえみ/松田聖子/奈美悦子

■第六章
表現の自由と人権について インタビュー
眞田範行(日弁連「人権と報道に関する調査研究委員会」委員)
岡留安則(『噂の真相』編集長)
文藝春秋社長室 法務・広報部

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