喫煙権と禁煙社会のハザマ

喫煙者に対する締め付けが厳しさを増している、という書き出しで、「夕刊フジ」(12月1日付)が「喫煙を考える」というタイトルの記事を掲載しています。記事の横に書かれている見出しは、「喫煙者への抑圧に見る“弱者は叩け”の思想」。さらに「先入観を捨てイデオロギーに害されない検討をすべき」という小見出しも出ています。

現在進みつつある社会の禁煙化については、「そこには多くの矛盾がある」とする第二東京弁護士会・溝呂木雄浩弁護士の談話をもとに記事を構成しています。

簡単に言えば喫煙者側の不満と提言といったところでしょうか。まずは記事を引用します。
「例えば、タクシーの禁煙車両が増えていますが、その理由は“臭いが残るから”としか言っていない。それなら、香水やニンニク臭はどうなるのか。また、お酒の席で嫌な思いをしたことのある人でも、たばこは分煙、禁煙と叫ぶことはあっても、お酒を飲む人と飲まない人を分けようという発想はない。そういう矛盾を、たばこを吸う吸わないに関わらず、多くの人にもっと問題視してもらいたい」という。

 もちろん、喫煙問題だけに矛盾があるのではない。例えば、生レバーは加熱しないと食中毒に至る可能性のあることが科学的に立証され、販売禁止となった。それは当然のことだ。しかし、生レバーで亡くなるより、正月に餅をノドに詰まらせて亡くなる人のほうがはるかに多い。

 それでも餅が禁圧されることはない。科学的に検証するものではないからだ。それなら喫煙も同じではないか。たばこの害は何も立証されていない。にもかかわらず叩かれる。

「要するに、叩けるもの、叩きやすいものは叩いておこうということ。それが今の日本社会の風潮であり、そういう歪な構図に国民が慣れてしまっていることに危機感を感じます」(以下略)
溝呂木雄浩弁護士は、新幹線の喫煙ルームなど障がい者の喫煙がむずかしくなっていることもあげ、喫煙権について「国も、弁護士会も、あるいは禁煙派にしても、先入観を捨て、イデオロギーに害されない検討をすべき」と結んでいます。

記事が主張する点をまとめると、
1.他の迷惑を排除せず喫煙だけ排除するのはおかしい
2.喫煙と病気の関係は「何も立証されていない」
3.障がい者の喫煙権が見逃されている

ということです。
さて、この問題、みなさんはどうお考えでしょうか。

禁煙と喫煙の問題。こんな個人ブログの一記事で結論を出せることではありません。

だからといって何も語るべきでない、というものでもないと思いますので、上記の引用記事の範囲で意見を述べて見ます。

私個人は、26歳のときに結核をわずらって以来、タバコの煙はご法度です。

また、妻子は、火災で大量の煙を吸った経験から、気道熱傷の既往や肺の疾患を抱えており、やはりタバコの煙は健康問題に直結しかねません。

ただ、喫煙を否定しているわけではありません。

作曲家の小林亜星氏が、「喫煙は生活の句読点」という主張をされています。健康問題も承知の上で吸われているそうです。

私は、そのような認識と価値観に基づき喫煙をされることは、その人の大切な権利だと思います。

という立場であることを明らかにした上で私の考えを述べますと、喫煙権と禁煙化の合理性はきちんと分けて論じるべきであり、記事の論理構成には賛成できません。

確かに、キャンペーン的に禁煙化の流れがある、という見方は否定できませんが、受動煙の問題を考えた場合、それが非合理であるとはいえないと思います。

記事中の溝呂木雄浩弁護士の言い分によると、障がい者の喫煙権をとりあげていますが、逆に、ベビーカーにのっている乳幼児や、車椅子で自覚的に自らの体を動くことが困難な人などが、望まない煙を問答無用にすわされることについての配慮が抜け落ちています。

また、香水やニンニク臭が排除されていないから、タバコの煙も排除するなという言い分も、後ろ向きな論理といわざるを得ません。

それをいうなら、禁煙のシステムを確立した上で、それをモデルとして他の迷惑行為抑制の仕組みも引き続き確立すると考えられないのでしょうか。

それと、記事では触れていませんが、社会的な禁煙化の流れは、嫌煙、禁煙派の肩を持つからだと限定的に見ることも正しくないと思います。

ニコチン中毒は、それをとめられなかったり、むしろそれを進めてしまったのは国のタバコ政策にあるのではないか。つまり、喫煙自体が、社会的な責任によるものである、という観点に立っているからであり、喫煙者のためという意味もこめられているのではないでしょうか。

喫煙と病気の関係は「何も立証されていない」、というのはもうトンデモといっていいでしょう。

がんと喫煙との関係は、動物実験や疫学調査などの結果、肺がんを筆頭に、食道がんや、膵臓がん、口腔がんや、咽頭がんなどで因果関係があると見られています。

「がん予防14カ条」に喫煙が明記されていないことを根拠として「何も立証されていない」論を主張する人はいるのですが、そもそもタバコは発ガン物質がたくさん含まれています。発ガン物質を体に入れないのは当たり前の話なので明記されていないだけなのです。

たしかに、喫煙してもがんになる人とならない人がいます。しかし、それは即、タバコとガンは関係ないという結論に結びつくわけではありません。

がんというのは、人間の何重もある免疫システムをかいくぐってできるものと考えられているので、いずれにしても多様な交絡因子があると見ることが順当です。

タバコのせいでないといえばそういうこともできるのですが、ただし、それは正確に言えば、たばこ「だけ」のせいではないという話です。つまり、タバコが他のどのような因子とどういうメカニズムで作用してがんになるのかという「立証」ができていないということなのです。

と、ここまで書きましたが、もうすでにこの時点で、喫煙される方々は、自分を否定されたようで不快に感じられているかもしれません。

誤解のないように繰り返し書くと、私は個人の喫煙権を否定しているのではなく、喫煙と禁煙の両立を行うためにも、いいかげんな禁煙否定は反駁しなければならないと思っているだけです。

そのためにも、記事の最後に書かれている喫煙者の権利は、障がい者に限らず、だれしも求めることに全く反対しません。

といっても、私は冒頭に書いたように喫煙者ではないので、具体的にこうすればいいという提案はありません。

ただ、民主党の元厚生労働大臣だった小宮山洋子氏の、大幅増税で購買意欲を喪失させて禁煙させるやり方には懐疑的です。

禁煙、節煙はやはり各自の判断で行うべきであり、増税というのは社会的規制というよりも圧力といったほうがいいと思うからです。

わずかな元記事に、長くなってしまいました。きょうはこんなところで失礼します。

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この記事へのコメント

2012年12月02日 05:02
喫煙する人もしない人も
やっぱり最低限のマナーは
守って欲しいです。
2012年12月02日 05:37
私は煙草を吸わないので禁煙化賛成です。
吸う人が(受動煙を)吸わされる人に配慮するのは当然だと思います。
2012年12月02日 05:38
自分も元喫煙者(と言っても20年以上前に止めてますが^^;)、喫煙時の気持ちの落ち着きと言う点は判る気がします。
確かにタバコは百害あって一利無し(上記は一利かな?)吸わずに済むのであれば、その方が良いですからね。
聞くところ豪ではタバコのパッケージを綺麗なパッケージから購買意欲を削ぐような物に切替て禁煙促進させる事を始めたとか。
2012年12月02日 07:06
昔はタバコ吸ってました。
今は止めてます。
飲食店に行ってタバコ臭がすると、
いや~な気持ちになります。
美味しいもの食べに来たのに、
美味しく感じられない環境ってどうなのよって思います。
ひとり言でした。
2012年12月02日 07:47
吸う場所がないので本数は減りましたけれど…
最近は、差別に近いな・・・・とよく感じます…
2012年12月02日 09:11
おはようございます^^
2年前禁煙しました。1日10本未満でした。
吸っていない時でも咳が出るのでさすがにやばいなと思いましたね。約1カ月で治まりました。もしかしたらCOPD慢性閉塞性肺疾患の入り口だったかも知れません。
2012年12月02日 09:21
禁煙、喫煙は個人の判断というのは大賛成です。
こんなこと規制される前に、タバコを吸う人は吸わない人の
ことも考えなければなりません。
おまけにクルマの窓から吸殻を捨てたり、散歩の途中で道路に
ポイ捨てしたりと、マナーの悪い人が大変多いですね。
私は1日に3本か4本ですが食後の楽しみに吸っています。
2012年12月02日 10:00
タバコが違法なら吸うなって言えるけど、自由ですからね。ヤケドさせられたことがあるので嫌いです。食事中の臭いも嫌です。先日、小学校では嫌煙授業がありました。何故吸うのか分からないと言います。なんで授業でダメだって習ったのに、法で取り締まらないのか??が疑問だそうです。
2012年12月02日 10:29
私はヘビースモーカーの部類に入ると思います。
正直なところ、ここ数年の喫煙者の立場は随分と酷い扱いだなと
感じる事は多いです。
しかし、私達喫煙者の中にはいまだにマナーを弁えない
残念な方がいる事も事実です。
喫煙者と禁煙・嫌煙者が気持ちよく共存できるように
まずは喫煙者がマナーを徹底しなければ・・・
2012年12月02日 10:58
私の職場では、喫煙コーナーが屋外にあり、暴風雨でも大雪でも「吸いたい人は外に行け」という、喫煙者の人権を認めない施策を行いました。「明治以来、非喫煙者は辛抱してきた」とも言われたのですが、釈然としない思いがあります。
妄言多謝。
2012年12月02日 10:58
30歳まで吸っていました。
喫煙者であった時は、周りへの配慮なんて微塵も
考えていませんでした。煙なんか空気中ですぐ薄まって
消えてしまうんだから関係ないと・・・。
吸い殻はなるべく灰皿に捨てますが、「なるべく」です。
無ければ、路上や排水溝にポイ。
イライラしたとき、達成感を味わったとき、食後の一服
それはもう至福の瞬間でしたね。

非喫煙者になったら、とんでもないことをしてきた
自分に気づきました。
吸いたくない煙を吸わされ、嗅ぎたくない匂いを嗅がされ、
ポイ捨てされた吸い殻を掃除する人間の気持ちに気づくと
とても恥ずかしい気持ちになりましたね。
特に食事をする場所での喫煙は、本当にキツイ。。。
もは~~っと煙が漂ってくると店を出ちゃいます。
当時はこんな風に思っている人がいるなんて考え無かった。

喫煙は自己責任で楽しむ嗜好品。
否定する気持ちは無いですけど、一昔前のどこでもOKな
社会には戻ってほしくないですね。

なんだかこの話題は書きたいこと沢山出てきちゃいますね。
もうやめとうこう^^;
2012年12月02日 12:49
私は喫煙しませんが、夫の方はかなりのヘビースモーカーでした^^;
なので、喫煙する時は外に行って喫煙してもらっています。
匂いはもちろんの事、煙を吸いたくないっていうのもあります。
でも、外食したりすると目の前で座れたり、お店によっては喫煙席と禁煙席それほどの区切りもないのにって場所もあったりして嫌な思いをします。
まあ、喫煙者にとっても最近は喫煙する場も少なくなって気の毒な気もしますけど・・・
2012年12月02日 13:09
ご訪問&コメントありがとうございます^^

すっきりとフェアなお考え仰る通りだと思います
端から逆の端までとアナウンスのされ方にも問題がありますものね...(^^;)
2012年12月02日 14:00
私はもう30年位たばこ吸い続けております~!!最近吸えるところが減ってきました~!!でも自分の店ではガンガンスっております~!!
2012年12月02日 15:06
タバコにかぎらず叩けるものはどんどん叩こう!
という風潮があるのは確かですよね。
良くないと思います…
2012年12月02日 16:11
生レバーと餅の比較はおもしろいですね(^o^;)
私、個人的には香水の匂いなんとか制限してほしいんですが…(-_-;)
2012年12月02日 17:48
『におい』を「匂い」と思うか、「臭い」と思うか、でかなり違いますよね。
タバコは吸わないので吸う人と食事をする時は「禁煙」と言いますよ。うちに来た人にも「禁煙」だし(笑)。
その他の気になるものもたくさんありますが、タバコは別ものだと思ってます。
2012年12月02日 19:00
自分も煙草を吸っていますが、仕事がお客様商売ですので
日中は決して喫煙できません。
ここ数年は会社の方針もあり、接客中に匂いを出すのもご法度。休憩時間は禁煙、厳しいご時勢になって来ました。
2012年12月02日 19:29
大体のこといっぷくさんが書かれているので個人的なことを書くと心肺機能抜群であった時でさえ、私はヘビースモーカーが近くに来ると呼吸困難に陥りそうでした。そのことだけでやっぱり体に悪い、そう思ってました。それと電車がまだ禁煙でなかったとき、晴れ着で電車に乗ると臭いが移って嫌だと我が家の女どもが申しておりやした。ついでに綺麗に結った髪まで臭くなってかなわないと。その移り香で私は呼吸が苦しくなった経験があります。あ、香水もそうですね、きつい香水の人がそばにくると、どうしょうもありません。乗り物でも若い女性は香水がきつくないのでできるだけ若い、そして綺麗な女性のそばに行くようにしています。あ、きれいは私の趣味というか、好みの問題ですが。
2012年12月02日 19:30
いっぷく さん、こんばんは。

まぁ、最低限のマナーはね~
歩きタバコと食事中ってのは勘弁して欲しいです。
2012年12月02日 19:44
私の住む市で健康増進のため、禁煙を実行する人の数値目標を出したら、パブリックコメントでタバコ小売業の方から反対意見が相次ぎました。
 産業になっているものを止めさせようとするとそういう力も働きますね。
 原発廃止も、電力供給だけでなく地域の経済的要求が問題になります。

 さてご指摘ありがとうございました。
 修正します。正確に書くように注意します。
2012年12月02日 21:24
僕もヘヴィー・スモーカーですね。
マナーを守って吸おうとは心がけています。
他の愛煙家が肩身の狭い思いをしないように。
正直、外ではなかなか吸いたくても吸える場所がないのですが。
2012年12月02日 22:33
こんばんは。
禁煙、喫煙者の側から見ると、たしかに最近の”喫煙者迫害”(?)は異常と思えざるを得ないところがありますね。
ブラジルでも喫煙対策は厳しく、公共の建物内や室内、それにレストランなどの飲食店内でも禁止です。
違反者には重い罰金が課せられます。

一方、非喫煙者が喫煙者のタバコの煙(副流煙)を吸入することによる、健康への悪影響は科学的にも実証されていることです。
私自身も十数年前までは喫煙していましたが、妻が健康上の問題から喫煙を止めたのに合わせ、喫煙しました。
しかし、外出などして近くで喫煙する人がいると、やはり副流煙を吸わされることはたいへん不快です。(そんなにまで身体が変化してしまったのですね…)

まったく健康に害をおよぼさないタバコでも発明されればいいのですが、難しいでしょうね。
2012年12月03日 00:32
喫煙者は全員がそうでないにせよ、マナーの悪い人間が多い、或いは目立つので、否定論者から叩かれるのだと思います。
2012年12月03日 19:12
わたしもその記事を読みました

病気との因果関係など医学的なことはわかりません
でも高校時代の同窓生でタバコを吸う人が肺がんで亡くなる方が多いのは事実です
吸わないひとにはまだ肺がんを聞いたことがありません

タバコは迷惑にならなければいいですが、
マナーを守って欲しいです
2012年12月11日 02:49
肩身の狭い喫煙者です。

ご意見ご尤もです。
が昨今の、"健康"という、誰にも反論し難い概念を振りかざし、タバコ=絶対悪という決め付けで
「叩けるものは叩け」「悪いやつだから締め付けろ、搾り取れ」という風潮には
なんだかなぁ、という思いしかありません。

そもそもそういう理屈だって、それによって懐が潤う存在が声高に主張し始めたわけですから。

ま、吸える場所や時間が限定されるようになった分、1本1本が至福の時になったのは怪我の功名でしょうw

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