萬屋錦之介と深作欣二、娯楽とリアリティの相克

萬屋錦之介、深作欣二といえば、「東映の戦後史」を語る上で不可欠な2人。今週号の「アサヒ芸能」(12月13日号)では、その萬屋錦之介が主演、深作欣二がメガホンを取った「柳生一族の陰謀」(78年)に出演した西郷輝彦が、インタビューに答える形で当時を思い出しています。国民栄誉賞という、時の総理大臣の裁量による顕彰があります。私は正直言って、為政者の人気取り(つまり延命)作戦に過ぎないこの賞に関心がありませんが、そんな私が唯一、国民栄誉賞受賞の噂があったとき、“ああ取らせたいなあ”と思ったのが萬屋錦之介さんでした。

萬屋錦之介といえば、もとは初代中村錦之助。歌舞伎界の名跡としては決して評価は高くないのですが、美空ひばりとの共演で映画に進出してからその名は価値を高め、東映時代劇の隆盛に貢献しました。

テレビドラマも数多く出演していますが、萬屋錦之介主演作は「子連れ狼」を除くと、歌舞伎時代に身につけた大仰な台詞回しがドラマを盛り上げる「娯楽時代劇」。幅広い年齢層に時代劇の面白さを教えてくれました。

一方、深作欣二監督は、それまで鶴田浩二、高倉健、藤純子らによる“義理と人情の劇画”であった仁侠映画を実録路線に切り替えた映画史上に残る監督です。

有名な「仁義なきたたかい」は、広島のヤクザ二大勢力のどちらとも関わりの深かった美能幸三さんの手記を、飯干晃一さんがノンフィクション小説としてまとめたものが原作になっています。

深作欣二監督は以後もリアリティある群像劇を求めました。ヤクザの世界では伝説化している山口組の田岡一雄三代目組長、直系の神戸国際ギャングといわれた菅谷政雄・菅谷組組長、その舎弟で北陸の帝王といわれた川内弘・川内組組長などをモデルとした映画を次々制作。

ちなみに、川内弘・川内組組長の暗殺は映画化が遠因になっているともいわれ、深作欣二監督もさすがに続けるわけにはいかないと思ったのか、そこでヤクザ実録路線を打ち切っています。

歌舞伎出身の大仰な台詞回しが得意な娯楽時代劇の第一人者・萬屋錦之介と、実録群像劇が好きな深作欣二監督。これはもう、同じ映画人でも異なる価値観に生きる者同士です。黒澤明監督と勝新太郎ではありませんが、衝突してしまうことはわかりきっていました。

実際に、撮影は7度もリテイクがあり、萬屋錦之介が怒って帰ってしまった、深作欣二監督が台詞回しに注文を出したところ、萬屋錦之介が断った、といったことがあったとか。

それでも、「柳生一族の陰謀」は完成しました。記事によると、深作欣二監督の方が萬屋錦之介という素材を生かす方向に采配を切り替えたといいます。

その結果、映画史に残る名文句が誕生。

我につくも、敵にまわるも、心して決めい!

当時のCMスポットに使われたこの重厚なコピーは、映画の脚本にはなかったものの宣伝部が考案。萬屋錦之介も気に入って採用したそうです。
取り乱して絶叫する但馬守は、萬屋の歌舞伎役者たるセリフ回しで異様な迫力を生む。西郷は試写の場で萬屋の演技に身震いした。

「やっぱり萬屋さんはあれでいい。周りがリアルな演技だから、大画面に生きるのは萬屋さんのセリフ回し。同時に、この映画は当たると確信しました」

 実際、公開と同時に観客が殺到し、その興行収入は30億円以上を記録。時代劇初挑戦だった深作にとって、大きな勲章をもたらした。
当時の映画や俳優を知っている者にとっては面白いエピソードなのですが、今の俳優と監督にこういう葛藤はあるのでしょうか。

最近、映画全然観てないからわからないのですが…。

週刊アサヒ芸能2012年12月13日号 [雑誌][2012.12.04]

週刊アサヒ芸能2012年12月13日号 [雑誌][2012.12.04]

  • 作者: 徳間書店
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2012
  • メディア: 雑誌

この記事へのコメント

2012年12月06日 03:57
破れ傘ナントカって面白かったけど。手前ら人間じゃねえって叫ぶアレ。
2012年12月06日 05:42
映画の現場って独特なのでしょうね〜
2012年12月06日 06:46
あの映画のラスト、それまで重々しい口調だった萬屋但馬守が、十兵衛が投げ捨てた家光の首を見て、
「ぅえぇっ」と一気に声が裏返るところ、あれが印象的でした。
(もちろんその後の錦ちゃん独り舞台も含め)

色んな意味で「これは夢でござる」な映画でしたねえ。
2012年12月06日 06:54
niceありがとうございます
2012年12月06日 08:58
おはようございます^^
「我につくも、敵にまわるも、心して決めい!」凄いセリフですね!「柳生一族の陰謀」ユーチューブで予告編見てきました♪
2012年12月06日 09:58
「柳生一族の陰謀」観てみたくなりました。
CSで放送しないかな~。
2012年12月06日 10:11
ご訪問&コメントありがとうございます^^

萬屋錦之介さんは子供の頃子連れ狼とか
色んな時代劇でヒーロでしたものね(^^)
2012年12月06日 11:57
いい意味でも悪い意味でもある
役者くさい役者が今はいませんね~
なんでもこなす役者が多いけど、小ぶりにおさまってるんですよ~
役者以外、何の役にもたたない大型の役者出てこないかしら・・・
2012年12月06日 12:02
こんにちわ~

始めまして~だと思いますが
拙い日記にお立ち寄り戴き
nice!までありがとうございました~
今後とも宜しくお願い致しま~す。
2012年12月06日 13:51
萬屋錦之介・・・わたしの耳ではセリフがよく聞き取れなかった。
台詞回しに原因があったのかな?
2012年12月06日 13:53
萬屋錦之助!!大好きでした(^^)v 柳生一族の陰謀も、TVで良く見ましたよ(^^;)ゞメチャ、カッコいいですよね~(^^)v
こんなエピソードがあったなんて、チョッとビックリです(^^;)ゞどちらもプライドは高そうですもんね(^^)だからこその”この映画!”なんでしょうね(^^)v
2012年12月06日 15:20
こんばんは☆
2012年12月06日 17:25
子どもの頃、父親が時代劇が好きで漠然と見ていました^^
鬼平犯科帳も萬屋錦之介さんが演じてましたよね^^
2012年12月06日 17:40
萬屋錦之介のヤクザ姿みて見たかったですが・・・凄みなさそうです。渡世人も似なわそう。やはりチャンの大五郎でしょうか?。元妻の淡路恵子の女親分のが強そうだし、怖そうです。
自分の子供時代は、萬屋ではなく、
中村錦之介でしたね。
中村賀津雄と兄弟で出演していましたね。
昔を思い出しました。
2012年12月06日 20:31
お礼が遅くなりましたが
お祝いコメントありがとうございます^^
「子連れ狼」懐かしいですねぇー
大五郎が可愛くってファンでした^・^
2012年12月06日 22:06
いっぷく さん、こんばんは。

国民栄誉賞、ふさわしい人が選ばれていないこともありますし
総理の実績のために授与されることありますね。
2012年12月06日 23:04
昔の役者さんは重みがあって素敵ですよね(^▽^)ほんと迫力ありましたねぇ~!!
今の役者さんは何でもすんなりこなしているようですが、記憶に残りにくかも・・・。
2012年12月07日 17:06
柳生一族の陰謀は見ました。時代劇映画の最後の大傑作だと思います。ただ一つ残念だったのは柳生十兵衛(千葉真一)が投げつける将軍の首がいかにも作り物らしくチャチだったこと。

 子供の頃は、東映の中でも錦之介が一番好きでした。宮本武蔵は、オールナイトで全部作見ました。子連れ狼も原作者が評価したとおり№1のはまり役だと思います。

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