『大冒険』日本版007を目指した特撮アクション作品

『大冒険』(1965年、東宝)を鑑賞しました。何度かご紹介している東宝クレージー映画の12作目であり、ハナ肇とクレージーキャッツ結成10周年記念作品でもあります。当時話題になっていた007ブームを意識し、走っている車の上を跳んだり、ビルから落ちたりとハッとするシーン続出のアクション映画です。大冒険
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.22)より

東宝クレージー映画は、植木等主演の「無責任シリーズ」「日本一シリーズ」、クレージーキャッツ全員が出演する「クレージー作戦シリーズ」、そして時代劇シリーズの4パターンの作品が全30作上映されました。

本作『大冒険』は、クレージーキャッツ全員が出演していますが、「クレージー」という文字はタイトルにつきません。

古澤憲吾監督は、これまでのクレージー映画のパターンを踏襲せず、当時話題になっていた007シリーズのような徹底したアクション映画を作りたかったのだと思います。

円谷英二率いる東宝特撮陣も撮影に関わっています。

ゴールデンウイークのような大型連休ではないにしても、ところどころに祭日が入る秋の時期をシルバーウイークと言いますが、1965年の10月31日に、『喜劇駅前大学』と2本立てで公開された本作は、当時のシルバーウイーク邦画ナンバーワンのヒット作になったそうです。

緊迫したアクションシーンから一転して……


植木等は、学生時代体育会に所属していた運動神経バツグンの週刊誌記者。アパートの隣室には、発明家の谷啓とその妹の団令子が住んでいます。

植木等は団令子に入れあげていますが、団令子はお金持ちの息子・安田伸に傾きつつあります。

植木等は世界中を揺るがせている偽札事件に着目し、編集長の桜井センリにお願いして取材を始めます。

その動きに気づいた国際ニセ札団の越路吹雪は、植木等や、植木等と行動を共にしていた谷啓の命を何度か狙い、団令子を誘拐して神戸に行きます。

植木等をニセ札犯と間違えた刑事のハナ肇、犬塚弘、石橋エータローの3人も後を追います。

ニセ札団のアジトには潜水艦があり、そこから南海の孤島に植木等らは連れて行かれますが、そこに待っていたニセ札団のボスは、何と自決したと云われたアドルフ・ヒトラー。

いくら、一部で生存説が囁かれているからといって、それをかつての日独伊三国同盟の一角を担った日本の映画で描いてしまうのは絶句ものです。

ウルトラタカ派・古澤憲吾監督の悲願だったのでしょう。

作中、ヒトラーは若者の憧れだったと植木等に言わせています。

戦争反対を叫んで投獄された日本共産党員僧侶(浄土真宗)の父親をもつ植木等としては、さぞ複雑な思いだったでしょう。

おまけに、最後はニセ札団が、仕掛けた水爆を谷啓が制御装置を狂わせたことで自爆してしまうのです。

今なら通らない企画でしょう。当時でもよく上映できたなあと思います。

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手に汗握るアクションシーン


『大冒険』の見どころは、何と言っても特撮プラス出演者の体を張ったアクションです。文章ではなかなかお伝えしにくいのが残念。

植木等が走ってくる自動車の上をひょいと飛び乗ったり、対向車に飛び移ったり、走っている汽車によじ登ったりするシーンが当たり前のように出てきます。

圧巻は、植木等が悪者によってビルの屋上から落とされるシーンがあります。

大冒険のビルのシーン



あー、ビルから……



電線に引っかかった
いずれも『大冒険』より

特撮だろうと思いながらも、思わず息をのんでしまう場面です。

本作を収録した講談社の『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.22)によると、大型クレーンに丸太をつなぎ、その先にワイヤーで植木等を吊るしたそうです。

本当にビルから落ちたのではなくとも、かなり厳しいシーンです。

当時の植木等は超売れっ子でしたから、高額な保険がかけられたのでしょう。

森繁久彌と越路吹雪の出演も、シリーズ唯一のことです。

森繁久彌は、当時「社長シリーズ」や「駅前シリーズ」に出演していることから、クレージー映画に出演することはないだろうと思われていましたが、本作冒頭のシーンで総理大臣の役を演じています。

クレージーキャッツからは、その前年にハナ肇が『社長紳士録』に出演しており、それが交流のきっかけになったのかもしれません。

社長紳士録
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.39)より

その後、森繁久彌とハナ肇は親交を深め、『どてかぼちゃ』(1975年11月6日~1976年5月13日、NET=現テレビ朝日)というドラマで、ハナ肇が森繁久彌と森光子のシーンに見とれて出番を忘れたNGエピソードを先日書きました。

1993年にハナ肇が亡くなった時は、森繁久彌が植木等とともに弔辞を読んでいます。

ハナ肇と渥美清は犬猿の仲だったそうですが、森繁久彌はそのどちらも俳優として評価していたようで、社長シリーズが終了した翌年の1971年、若尾文子がマドンナを演じた『男はつらいよ 純情篇』に出演しています。

越路吹雪は、歌手というイメージが強いかもしれませんが、「社長シリーズ」の第1作である『へそくり社長』では、森繁久彌の妻を演じています。

そして、今回もザ・ピーナッツがショーのシーンで歌っています。今回はディナーショーで『あなたの胸に』を歌っています。

『あなたの胸に』を歌うザ・ピーナッツ
『大冒険』より

これまで、『クレージー黄金作戦』(1967年)や『クレージーメキシコ大作戦』(1968年)で、ストーリーとは直接関係ないシーンを設けて、ザ・ピーナッツが歌っていることは書きました。

本作は1965年の作品ですから、本作におけるザ・ピーナッツの出演シーンが好評で、後のそれらが実現したのかもしれません。

ストーリー的には最後はハチャメチャになってしまいましたが、それぞれのシーンは、出演者の奮闘や今後に続く企画が誕生。その意味では興味深い作品です。