『妖かし大蔵新東宝』文芸作品からエンタメ、そしてドラマ制作へ

『妖かし大蔵新東宝』(那智史郎、繁田俊幸編/ワイズ出版)を読みました。ヴェネツィア国際映画祭で国際賞を受賞した『西鶴一代女』を作ったかと思えば、低予算と早撮りでエログロとセンセーショナリズムの映画を配給しまくった、邦画史上もっとも面白い映画会社の歩みについて書かれています。

今は、映画というと企画制作と配給会社が別々で、映画会社による特色はそれほどはっきりとはしなくなったかもしれません。
が、以前は、映画会社ごとに専属の俳優やスタッフを抱え、自社系列の全国の映画館に配給していたため、商品(映画作品)の差別化がはっきりとなされていました。
ということで、新東宝という映画会社をご存知ですか。
「新」とつくからには、東宝から枝分かれした会社だろう、ということはなんとなく想像がつくでしょう。
終戦直後にはよくあったのですが、映画会社の東宝にも労働争議がありました。
その中で、「経営陣にも不満だが、争議よりも仕事がしたい」と、経営側にも労組側にも与しない一部俳優とスタッフが、組合を脱退して1947年に独立したことが新東宝の始まりです。
俳優は、大河内傳次郎を筆頭に、長谷川一夫、黒川弥太郎、入江たか子、藤田進、花井蘭子、山田五十鈴、原節子、山根寿子、高峰秀子。
邦画界に名を残す大物ばかりですね。
そのような大物たちですから、最初のうちは文芸作品を真面目に撮っていました。
しかし、大物を並べて真面目な作品を撮ったからといってヒットするとは限らない、というのはどんな業界でもいえる話で、新東宝も間もなく経営がジリ貧となります。
そこで出てきたのが、元活動弁士で株主だった、歌手・近江俊郎の実兄である大蔵貢です。

Google検索画面より
大蔵貢社長は、作品にエロと笑いを盛り込み、オーバーで扇情的なストーリーや宣伝惹句で活路を見出しました。
そして、早撮り低予算で尺も短く、社外の俳優はなるべく使わないという、経営的には「堅実」路線を選択しました。

ポスターにはたとえばこんなものも
その頃の新東宝の主力俳優は、若山富三郎、宇津井健、菅原文太、丹波哲郎、天知茂、高島忠夫、吉田輝雄……(順不同)。
この方々に共通しているのは、モノマネなどでいじられやすい、つまりケレンのかかった芝居をする人が多いですね。
その原点は、新東宝のオーバーで扇情的な路線にあったのだろうとおもいます。
吉田輝雄が新東宝倒産後、菅原文太らと松竹に移ったのですが、移籍後の初主演が、このブログでもご紹介した『吸血鬼ゴケミドロ』(1968年)。

怖い映画で、メッセージ性もあるのですが、タイトルだけでプッと吹き出しちゃいますね。

副操縦士と乗務員ですが恋人同士みたい
一方、女優陣は、三ツ矢歌子、三原葉子、小畑絹代、高倉みゆき、左幸子、池内淳子、大空真弓……。
すでにお色気女優として完成していた三原葉子は別として、三ツ矢歌子、池内淳子らはテレビに移ると「優しいお母さん」女優としてブレイク、大空真弓も映画やテレビのマドンナにキャスティングされた後は、石井ふく子プロデューサーのホームドラマで活躍など、新東宝時代とはすっかりキャラクターの変わった仕事をしました。
エログロ路線は、少なくとも女優として長続きするものではない、と考えたのでしょうか。

新東宝時代の三ツ矢歌子

『気まぐれ本格派』(1978年、ユニオン映画)より
「お笑い」としては、たとえば当時売れていた、由利徹、南利明、八波むと志の脱線トリオを起用。
以前ご紹介した作品で、『脱線三銃士』(1958年)という尺の短い(44分)、いかにも低予算の映画があります。

3人が同じ女性を好きになり、その人が「自衛官が好き」というので、3人とも慌てて自衛官になったものの、実は自衛官の恋人(丹波哲郎)がいたというオチです。

国際派俳優・丹波哲郎はプログラムピクチャーにも出ていた(笑)
ネットの世界も、人気コンテンツの三要素は、「面白い」「役に立つ」「エロ」といわれています。
その意味で、新東宝の弾けた路線は、私たちにも示唆するものがあるのかもしれません。
いずれにしても、文芸からエログロエンタメまで、新東宝は作品の宝庫といわれています。
現在の国際放映へ
結局、いろいろ頑張った新東宝ですが、1961年に倒産。
制作部門が1964年に国際放映と商号変更して、新東宝の権利管理とテレビドラマの制作会社になりました。
エログロ扇情路線は返上して、『渥美清の泣いてたまるか』

TwellVより
『チャコちゃん』『○○ケンちゃん』シリーズ
ケンちゃんシリーズ
— レトロ系 (@retoro_mode) 2017年12月1日
1969年から放送された子供向けテレビドラマシリーズ。 pic.twitter.com/qBDmfTEt7l
『コメットさん』(九重佑三子版、大場久美子版とも)
@retoro_mode 「コメットさん」初代の九重佑三子さんバージョンと二代目の大場久美子さんバージョンの両方を観た事があるのはごく限られた世代ですね!(* ̄ー ̄)V pic.twitter.com/Q2wC5GfvfI
— 草野球おやじ (@hayaya_24) 2016年3月30日
『美しきチャレンジャー』(以上TBS)、

『水滸伝』

『水滸伝』(国際放映/日本テレビ)より
『西遊記』(堺正章版、いずれも日本テレビ)
【New!】モンキーマジックにはまる。『Netflixで西遊記がスタート、1978年の堺正章版を振り返ってみよう』https://t.co/iHMgVoXW5I pic.twitter.com/ywClqsMce9
— Time Out Tokyo JP (@TimeOutTokyoJP) 2018年4月27日
などを作っています。
国際放映になってからは、皆さんご存知のドラマもあるのではないでしょうか。
印象に残る作品はありますか。

妖かし大蔵新東宝
この記事へのコメント
国際放映のテレビドラマも多く観ております。こうして眺めさせていただくと、テレビドラマの発展にも大きく貢献しているのですね。『西遊記』なんかも夏目雅子や西田敏行が演じてしまえば、誰が出演してリメイクしようが難しいのは必定で、それをまた香取慎吾、内村光良とか、比較にもなりません。
食中毒というリスクはいつも頭に置いておくべきなのですね。いっぷく様のお話を拝読させていただきながら、わたしが今まで食中毒にかかってないのは単に「たまたま」だということがよく分かりました。高知は特に生魚を無頓着に食べる土地柄ですから、よく今まで当たることがなかったものだという感じです。今回は最寄りのスーパーの客に患者が出たので驚きました。スーパーの刺身はよく買っております。しかも刺身の中に目視可能な寄生虫がいる可能性があるとは、写真まで見てしまったのでけっこう衝撃でした。
>つまらない選択をしたなとおもいます。
おっしゃる通りですよね。わたしも女性を含め(笑)、そう言いたくなる人物に少なからず遭遇してきました。多少はこちらの負け惜しみの要素もありますが、しかし客観的に見ても、(こいつ、目の前のごく狭い範囲しか見えてないな)という連中が多くいますよね。そしてそんな連中にはその時点で何を言っても理解できないものです。わたしもイエス・キリストではありませんから(笑)、そのような連中は(死ぬ間際に、自分の人生はすべて失敗だったと悟って後悔しろ!)くらいに思うことも多いです(笑)。少なくともそうした連中に、(幸せになれよ!)とは思わないですね(笑)。
昨夜も深夜にずっと湿度90%以上でした。気温はやや落ち着いてはおりますが。わたしも『スーパーカップ』が週に5回くらいです(笑)。特にバニラの出番が多いですね。アイスクリームも好きなのですが、こう暑いとすっきりしたラクトアイスのバニラがいいですね。量も多いし(笑)。他にもラクトアイスのバニラは出ておりますが、『スーパーカップ』の味は絶妙ですよね。
田嶋陽子などは現実的には多くの女性に、(あのような女にはなりたくない)と思わせていると思います。もちろん田嶋の言葉で勇気を与えられた女性も少なからずいるでしょうが、逆効果を生んでいる方が多いのではないでしょうか。颯爽とデビューした上野千鶴子もいつしか硬直してしまった印象ですが、フェミニズム問題に限らず人間社会を論理で説明しようという人たちは、結局身動きが取れなくなる傾向にあるような気がします。それと「me too」運動にしても、米国ではハリウッド女優が中心だったのに、日本では福島瑞穂らがプラカード持ってドヤ顔では失笑されるだけでした。 RUKO
流行ったのは需要があったということでしょう。
俳優陣もすごいメンバーですし、制作スタッフ側もその後の活躍を見ると実力があったのですね。今のBS朝日でやってる「鉄道絶景の旅」は時々見てます。
そこに所属したおなじみに俳優さんたちの名前を見て
へえ、そうだったんだと妙に感心してしまいました。
映画は天知茂や三ツ矢歌子、沼田曜一といった新東宝オールスター作品でしたが、成人指定映画と二本立てで観る機会がありませんでした。それでもどうしても観たくて結局鑑賞できたのは成人して何年も経ってから、たまたま県外で公開されていたのを執念で観に行った覚えがあります。