高次脳機能障害の元競輪選手、社会復帰からわかった2つのこと

高次脳機能障害になってしまった元競輪選手が、パン屋さんとして社会復帰した有名な話があります。その復帰までの経緯を知り、高次脳機能障害だけでなく、一般にも通じる2つの学ぶべき点があると気づいたので、このブログ記事にまとめてみます。

子どもの高次脳機能障害のリハビリ医として有名な、橋本圭司医師(はしもとクリニック経堂)の主宰する、子どもの高次脳機能障害グループ学習会に参加したときの話です。

Google検索画面より
そこで話題になった「高次脳機能障害児者の就労」ですが、高次脳機能障害であるなしにかかわらず、人の生き方について示唆を与えてくれるお話だとおもいました。
以前も簡単にご紹介した、元競輪選手の多以良泉巳(たいらいずみ)さんの話です。

Google検索画面
橋本圭司医師の話を要約してご紹介します。
多以良泉巳(たいらいずみ)さんは交通事故。
競輪選手なんですね。
頭の怪我で、びまん性軸索損傷。
それとプラス頸髄損傷。寝たきり。
もう手足全然動かない状態だった。
もうひとり有名な競輪選手で、いしいまさしさんという人がいて、その人は復帰したんだけど、多以良泉巳さんは到底競技者として復帰できるめどになかった。
無念だったと思うよ、手足動かなくなって。
でもね、少しずつ歩けるようになって、彼はやっぱり競輪に戻りたかったんだけど、奥さん(女優の宇佐美総子さん)が作業所に行ったほうがいいって勧めたの。
みんなやっぱりさ、
えー作業所?
ってなっちゃうんだけど、彼行ったんですよ。
そしたら、作業所で粘土こねて、粘土細工やったんだって。
そしたらそれがすごく上手だった。
そしたら、僕その奥さんがすごいなって思うのは、パンを作らせてみたんだってね。
理由は、粘土細工、こねるのがうまいから。
そしたらね、彼が作るパンっていうのがね、もう美味しいんですよ。
『天使のパン』というのですが、いろいろなメディアで紹介されたので有名です。

http://gateaudange.com/ より
鎌倉でほんとに買えるから。
もしよかったらネットで調べてください。
ただね、全国から注文が殺到して、なんと10年待ちだって、今。←公式サイトによると14年待ち
で、多以良泉巳さんは、競輪選手やれるまでの原状回復はしなかったんだけど、自転車ぐらいは乗れるようになって。
でも今も頭が痛いそうです。
もうしんどいんだって。
もう二言目にはけっこう、うわあしんどいなあってなるんだけど、でも喜んでくれる人がいると、フーっとこう抜けてくるんだって、痛みが。
でね、全国からやっぱりファンレターが届いてね。
すごいね。
で、やっぱり思ったのは、作業所に行かなかったら、これはなかったんですよ。
みんなこう、ついつい(作業所行くのを)飛ばしてね(社会復帰を狙うんだけど)、いきなりこうはなれないよ。
だけど、やっぱり目の前のできることをやっていると、意外な副産物的になんか出てくるんだよね。
だから諦めないでもらいたい。
この話で感じたこと
この話で私が教わったことはふたつあります。
ひとつは
たとえ社会復帰する心づもりのある人でも、作業所に行くことは決して無駄ではない
ということ。
我々健常(定型)の者にもあてはまるんです。
たとえば希望している学校や会社に入れなかった、望む部署に配属されなかったとしても、それが自分の現状と割り切り、そこでできることを頑張れば、別の自分の可能性が開花する契機となるかもしれないということです。
やりもせず、希望通りにならないことを言い訳に、不平不満ばかり言っていても何も生み出しません。
普通に言ったらベタなお説教ですが、今回のように経緯を知った上での「教訓」だと説得力がありますね。
残念ながら、(発達)障碍者の親御さんの中には、作業所について「自分の息子は単純作業しかさせてもらえない」と不満を言う人がいます。
私は、二重の意味で残念だとおもいますね。
障碍者の中には単純作業すらできない、またはその機会(障碍者枠)が得られない人もいるのに、何を抜かすか、とおもっています。
また、発達障害者にとって、単純労働はむしろ得意な分野で、得意なことをとことんさせることで、橋本医師のいうような、副産物的な活路が開けてくるかもしれないのに、息子のことを何もわかってないなとおもいます。
そして、もうひとつは、出たがりの奥さんが幸いしたということ(笑)
女優さんですから、サイトを見ると、奥さんのプロフィールや過去の仕事もたくさんでています。
そして、回復までの話も本にしているし。
要するに、セルフプロデュースをする性分なのです。
失礼ながら、受傷時の症状と回復の比較をした場合、その劇的さは、私の長男のほうが上だとおもいます。

しかし私は、そのパブリシティには消極的で、100%自分の裁量で表現できるこのブログが精一杯で、講演等は一切行わないし、今は家族会にも入っていません。
しかし、このご夫婦は、社会に自分たちを晒すことで、それが励みになったり、適度なプレッシャーになったりして、回復と社会復帰にプラスに働いたのではないかと思います。
つまり、良し悪しという点では、自己顕示欲や「キャラが立つ」ことは、ちっとも悪いことではないのです。
たとえば、野村沙知代さんを世間は叩き、野村克也さんは、なんであんなのと結婚した、なんて批判されましたよね。
でも、野球バカで内にこもる野村克也さんを、表舞台に押し上げたのは、野村沙知代さんにほかなりません。
自分に押しが弱いと思う未婚の方は、積極的な女性を伴侶にされるといいかもしれませんね。

高次脳機能障害のリハビリがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)

幸せをはこぶ天使のパン
この記事へのコメント
諦めない心、やっぱり大切ですね!!
>作業所に行くことは決して無駄ではない
確かにそうだと思います。人間にとって、「理想を抱く」ことはとても大切ですが、あまりに現状とかけ離れた理想にこだわり続けると空回りばかりして、結局時間を空費してしまうことになりかねません。理想を捨てる必要はないけれど、目の前の「できること」を着実に、しかもできるだけ創造的にやり続けることで「次」に繋がる可能性も出てくるのですよね。
これは身近な生活の中でもよく感じることで、コンビニや飲食関係でいかにも無気力に嫌々そうに働いているがいるけれど、そうした職場で自分なりにできることはいっぱいあると思います。スーパーのレジなんかでも、お客の方を向かずに、いかにも(早く勤務時間よ終われ)という雰囲気の人がいますが、残念だし、感じ悪いですよね。そうした仕事の中で自分の能力を上げることもできますし、そうして努力していたら「次」の可能性、あるいは「意外な出会い」の可能性も出てくるのにといつも思います。
>副産物的な活路
そうなんですよね。とにかく目の前のものごとを一生懸命やることが、「新たな能力」の開発に繋がる可能性も多々あるのだと思います。
>セルフプロデュース
これを意識し、実践していくのも人生を生きていく上で、とても大切ですね。もちろんその方法は人それぞれでいいと思います。そしてこれは仕事上だけでなく、毎日の生活の中でも、「これが自分と思い込んでいる性格や行動原理」に流されるのでなく、「違う自分」を発見し、実践してみるのもとても大切だと思います。
>自分でもできそうな競技を自分でも手が届きそうなルックスの女の子が
確かにそれはありますね~。アイドル人気などもそうですし、「人気」という観点からすれば、「自分と地続きの人が頑張っている姿」というのは大きなポイントなのでしょうね。
わたしもボクシングには熱中しませんでした。ガッツ石松や具志堅のタイトルマッチは必ず観てはいましたが、憧れたりはしませんでしたね。プロレスの方がずっとおもしろかったですからね。そもそもわたしは、「打撃だけ」というのはどうも物足りないのです。
>その記事のセンセーショナリズムに喜んだり悔し紛れに感情的な批判をしたりしているあんた自身なんだよ
同感です。「マスゴミ」という言葉を普通に使っている時点で、その人自身が「ゴミ」なんですよね。そもそも「マスゴミ」なんていうあまりに大雑把なワードを使って、「一本取ったつもり」なんだから粗末過ぎます。
「迷信」の件で思い出したのですが、わたしは特に恋愛中などにいわゆる「禁忌」的な思考に陥ることがあります。つまり相手を大事に想うあまり、例えば、「去る」「別れる」「辞める」「消える」などの言葉を、もちろんさほど深刻にではありませんが、ちょっと避けたくなる心理が働くことが多々ありますね。馬鹿馬鹿しいと分かっているけれど、ついやってしまうという。そういう禁忌を経験した挙句、恋愛が上手く行かなくなることがほとんどなのですが(とほほ)、まあそうした経験を踏まえ、(もうやらないぞ)と最近決意いたしました(笑)。
>写真をゴミ箱から出したら
そうですね。でもわたしはそうした現象があり得るという可能性は捨てたくないと常に思っております。嘘八百で人を惑わせたり、金儲けをしている「自称~」の人たちは許し難いのですが、大きな宇宙の中に、何らかの人智を超えた現象などが「あるかもしれない」と心に留めておけば、生きているのにもかなり気が楽にはなることがありますよね。「あるかもしれない」という部分がとても大切で、これを「ある」と断言してはいけないんですよね。
タトゥの問題ですが、りゅうちぇるみたいなのがこんなことで「多様性」とか言い出すから困りますよね。言葉の価値がどんどん下がっていきます。「人権」という言葉にしても、本来は人間が社会で生きるために欠かすことのできない概念のはずなのですが、今では「人権」という言葉を使っただけで、「人権屋」とか「パヨク」とか言われます。
この件について、茂木健一郎がまた「タトゥを嫌う人たちは差別主義者で思考停止」と言わんばかりのとんでもない文章を書いておりますし、少し前はダルビッシュが、「日本人って、なんで分かってないのかなあ~」的なことを書いていて、こちらは極度な無知で論外ですが、どうにも極度にバランスを欠いたものの見方しかできない人たちが多くて困ります。 RUKO
って言うか健常者でも単純作業できない人たくさん居ますよ。バカにしてるのかは分かりませんがやりたくないのかやれないのか?文句だけはあれこれ言います確かに(笑)。
しかし、いろいろと壁が多く、歳を考えると先が思い描けないでいます。
でも、がんばらなければいけないですね!
とても良いお話ありがとうございます。
なかなか頭で理屈としてわかっていても、それを上手に伝えることが難しいもので、こういう「実話」としての、前に進んでいく人たちのお話は本当に参考になります。
力を頂きました。
誰でも『高次脳機能障害者』になる可能性があります。
そのような状況に置かれても、
努力を忘れないのは凄いことだと思います。
作業所を勧められた時に
「自分がしたいのはそういう事ではない」と
断ったという話を聞きましたが
やってみないで断ることはなかったのかもしれません