森谷司郎『日本沈没』人を嗅ぎ取る映像から人と自然の関係に昇華

森谷司郎(もりたにしろう、1931年9月28日~1984年12月2日)監督の生まれた日です。東宝で成瀬巳喜男・黒澤明の作品などで10年以上の助監督をつとめ、監督になってからは『日本沈没』『八甲田山』など大作を手がけており早逝が惜しまれます。(画像は森谷司郎監督が朝日高校同窓会サイトより、それ以外は劇中より)

森谷司郎監督作品ではこれまで、『兄貴の恋人』(1968年、東宝)をご紹介したことがあります。


やくざ者の弟や病気の母を抱えて、交際を遠慮する酒井和歌子ですが、若いのに小姑然とする妹の内藤洋子の後押しもあって、加山雄三が愛を貫くという、若大将シリーズの番外編のような作品です。
助監督時代は、その第一作である『大学の若大将』(1961年)に携わっています。

若大将シリーズは、もともと3本の予定が好評のため17本作られましたが、やはりこの第一作目が一番印象に残ります。
以前も書いたように、肉を焼く鉄板がなかったからといって、マネージャーがこっそりトイレの浄化槽の蓋を持ち出し、肉を焼くという爆笑シーンが忘れられません。

若い頃はバカやったっていいじゃないか、というおおらかさが感じられて、57年経っても飽きないシーンです。
『八甲田山』(1977年、橋本プロダクション、東宝映画、シナノ企画/東宝)については、映画のストーリーと共に、『八甲田山消された真実』という書籍が、そのストーリーを否定していることをご紹介しました。
「人間が人間を嗅ぎ取る」段階から「人と自然と宇宙の関係」に
さて、森谷司郎監督については、監督の出身校である岡山朝日高校同窓会のサイトで理解を助けていただきました。
http://asahikou.sakura.ne.jp/Dataroom/Person/Moritani/moritani.html
それによると、所属していた映画部の映画評論雑誌『シネマディクト』創刊号において、森谷司郎は「映画のにおい」と題してこう述べています。
「われわれの身辺に動めいているものは、そのもの特有のにおいをもっている。それはわれわれの感覚の対象に他ならないが、われわれはそのにおいの判断によって人間的な生き方をしているわけである。 / 映画の鑑賞法は万人が異なったものであってもかまわないが、僕は映画にもこの種の臭の濃厚なことをみとめざるを得ない。映画も他の部門の芸術と同じように人間の感覚(臭)に根ざすものであるから、当然映像からは、強い感覚的な臭を発散させるわけであろう。」(1950年1月23日発行)
森谷司郎にとって映画とは、「人間が人間を嗅ぎ取る」ものであるという確固たる持論を、わずか19歳で主張しているのです。
これじたい深い発言ですが、それが『八甲田山』を作った頃には、こう昇華させています。
「それまで私にとって劇映画は、人間と人間の関係を描くことが主で、自然や宇宙は背景にすぎなかった。しかし人間と人間がかかわり合う前に、人と自然と宇宙との大きく深い関係があることを、私は『八甲田』を撮ることで知ることができたように思う。」
つまり、森谷司郎監督にとって、映画とは「人間が人間を嗅ぎ取る」段階から「人と自然と宇宙との大きく深い関係がある」ことに進んでおり、その契機として『日本沈没』はあったのかもしれないとおもいました。
『日本沈没』(1973年、東宝)
原作は小松左京。配給収入日本記録20億円、観客動員800万人を達成したとされています。

深海潜水艇の操艇者・小野寺俊夫(藤岡弘)は、小笠原諸島北方の島が消えた原因を突きとめようと、海底火山の権威である田所博士(小林桂樹)、幸長助教授(滝田裕介)らとともに日本海溝にもぐったところ、異様な海底異変を発見します。

田所博士(小林桂樹)は日本沈没を予言するのですが、誰も相手にしてくれません。
しかし、内閣調査室の邦枝(中丸忠雄)情報科学の専門家中田(二谷英明)らとともに行った調査の結果は「日本は1年以内に沈没する」。

日本各地が地震、噴火、爆発で沈んでいき、総理(丹波哲郎)は避難を指示。

小野寺俊夫(藤岡弘)は恋人の玲子(いしだあゆみ)と連絡が途切れてしまい、

日本人は諸外国の協力で各地に避難して日本は沈没する、という話です。
2006年のリメイク版、マンガ版など、翻案作品はいくつかあり、2006年版の評判はあまり良くないようですね。
私は見ていないのですが、要するに恋愛話にウエイトを置きすぎということのようです。
自然の脅威の前には、「人間が人間を嗅ぎ取る」行為は無残にも打ち砕かれる無情が1973年版で描かれていたと思うのですが、2006年版はそうでなかったのでしょうか。
余談ですが、森谷司郎監督のお嬢さんが、実は私の妹と、高校・大学の同級生でした。
その関係で何度か電話を取り次いだことがあるのですが、森谷司郎監督の早逝がわかっていたら、ダメもとで、つないでいただくなり、お嬢さんを通して何かご教示いただくなりしておけばよかった、などと、例によって先に立たない後悔をしています。
『日本沈没』。ご覧になりましたか。
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この記事へのコメント
『日本沈没』は最近観返しました。おもしろかったです。リメイクはわたしは観ていなくて、弟は、「柴咲コウの顔が怖かった」(笑)と語っておりました。と言いますか、この話題が出たら、ほとんどネタのように必ず言います。余程柴咲コウの顔面にインパクトがあったのでしょう。まあ、柴咲コウと草なぎでは・・・この二人に日本の運命を委ねたくないですな(笑)。
森谷司郎監督の考え、これを知った上で監督の作品を再鑑賞すると、また新しい発見がありそうです。『パーフェクト・ストーム』というハリウッド映画の日本公開時の宣伝コピーが、「自然は人間を愛してなどいない」というものでしたが、そうなのですよね。「人間の築いた文明が~」とか、人間がいくら力んでも、巨大隕石的なもの(?)が地球へぶつかったら、そこで人類のやってきたことはすべておじゃんになってしまうかもしれないのですよね。だからAIがどうとか、火星移住がどうとか言っていくら力んでも、自然の前には、まして宇宙の前には人間なんて大したものじゃない・・・という気持ちはわたしの根本にあります。反対に、「だからこそ、人間が愛しい」とも言えるのですが、兎にも角にも、「傲慢な人間」はダメなのです。
>何日かに1度の調整を推奨すればそれでいいのではないかとおもいます。
これは素晴らしいご指摘をいただきました。睡眠については、「悩み」ほどではないですが、いつも(もうちょっとどうにかならないかな)と感じておりまして、つまりわたし、毎日あ~4時間の継続睡眠を3回ほど取るという生活パターンになっているのです。「眠れない」というのではなく、「やるべきこと」の配分の関係で、今のところこの睡眠の取り方がまずまず適しているのです。でもやっぱり、(もっとゆっくり眠った方がいいよなあ)という感も強かったのですが、「何日かに1度の調整」というのはすごく合理的ですよね。試みてみます。やはり「毎日、同じ時間に寝る」「毎日、同じ時間量だけ寝る」というパターンを義務付けると、「その時にやりたいこと」ができなくなることがありますよね。
>まあ人間社会は頭の中で考える理屈通りにはいかないもんだなということなのでしょう
結局それなんですよね。フランスの教育制度では必ず哲学を学ぶので彼らは非常に会話に長けているし、思考の厳密さも凄いものがあります。けれどフランス人哲学者の著書を読むと、「とてもおもしろい、けれどここまで理詰めにしなくても・・・」と、ちょっと辟易することもしばしばです。特に80年代以降のフランス哲学が社会にどれだけ影響を与えたかと考えれば・・・さほどでもないとしか思えません。もちろんわたしが論理的な人間ではないということから、余計にそう感じるのかもしれませんが。 RUKO
日本もこの映画のような日本沈没とならないでほしいですが昨今の災害を見ると凡そ同じような事が起きていますね。
週末の台風も猛烈と云う位だそうですからね。
テレビ版も観てましたが、あの地震の「音」が一番怖かったです。
小松左京の小説も読みましたが、忘れてます。
人は忘れていきますね。
お写真の中にあった酒井和歌子さん・・
当時、とっても綺麗(可愛い)でしたね!
ただ、見た覚えがありません。
いしだあゆみさんの下着姿、今でも印象に残っています。
リメイク版の方でその存在を知ったのですが、多くの人に観られていた印象があります。