日本一の断絶男、高度経済成長の“終わりの始まり”が見えてくる

『日本一の断絶男』(1969年、東宝)が、BS11で来る4月23日(火)よる7時00分~8時52分の『火曜シネマ昭和喜劇シリーズ』で放送されます。「パロディだけど、東宝で初めてヤクザ映画をやっちゃった(須川栄三監督・談)」(BS11公式サイトより)そうです。(画像はDVD『日本一の断絶男』より)

『日本一の断絶男』は、植木等主演映画『日本一』シリーズ全10作の第7作目です。

クレージー映画全体では、25作目になります。
クレージー映画は、1962年~1971年暮れにかけて製作された全30作のシリーズです。
植木等主演の無責任シリーズ(2)/日本一シリーズ(10)、クレージーキャッツが全員出演するクレージー作戦シリーズ(14)、時代劇(4)などがあり、全作品カラー、シネマスコープです。(カッコ内は作品数)
ということで、『日本一の断絶男』はクレージーキャッツの映画としては、正直、ピークを超えて下り坂に入りつつあった時期の作品です。
そういう意味で、マンネリ打開ということも意識して、「パロディだけど、東宝で初めてヤクザ映画をやっちゃった(須川栄三監督・談)」ということになったのだろうとおもいます。
BS11の公式サイトにアクセスすると、もう気が早くて『放送終了』と記載されていますが、番組表を見ると23日放送は間違いありません。
無料BS初放送!となっています。
ストーリーは、植木等が、なべおさみや、その幼馴染みの緑魔子と知り合い、彼らを上手に利用して要領よく生きようという話です。
クレージー映画のマドンナ言えば、団令子、浜美枝、野川由美子らがつとめてきましたが、今回は緑魔子です。
「虚ろな表情と倦怠的な雰囲気」は70年代に流行する若者気質の先取として桃井かおりや烏丸せつこら「無気力演技派女優」のルーツとも評される(Wikiより)といいますが、そうでない役もずいぶん演じているので、器用な女優かもしれません。
東映の映像部門の責任者だった岡田茂(後の社長)と、合わなくて喧嘩別れ的に解雇された翌年の仕事だったので、見返してやろうと頑張ったはずです。
オープニングから、アポロの月面着陸、学生運動、建設中の大阪万博会場のロケ地など、思いっきり時代を感じさせるシーンが登場します。
日本一男もおとなしくなった1969年
本作『日本一の断絶男』で、植木等がお調子者として描かれているのはそれまでの日本一シリーズと同じですが、そこから出世したり、大金持ちになったりするハッピーエンドではありません。
しかも、全く興味なくそれらを捨ててしまうことがシリーズ初期とは全く違います。
明るくノーテンキな面も、影を潜めてしまい、どことなく覇気がないような気がします。
植木等の加齢もありますが、やはり高度経済成長に陰りを見せていた時代の雰囲気が、従来の作風と微妙に合わなくなっていたのではないでしょうか。
映画やテレビなど大衆文化は、その時代の世相の合わせ鏡ともいいます。
我が国は、1970年には、GDP実質成長率が前年比10.3%の上昇でしたが、翌年度から4.4、8.4、8.0と、ひと桁台の成長にとどまり、74年のオイルショック時にはついにマイナスに転落してしまいました。
一方、クレージー映画の始まった翌年の1963年~1969年は、『昭和37年不況』をのぞくと安定した2桁成長を続けていました。
クレージー映画の凋落は、右肩上がりの高度経済成長の終わりを予言するものだった、と改めて感じます。
そんな「下り坂の始まり」である時代背景を念頭に置いて鑑賞すると面白いかもしれません。
ちなみに、タイトルの「断絶」ですが、これもトレンドからの命名です。
この頃は“親子の断絶”が問題になっていて、子世代で民主化の機運が高まり、一方で戦前の家父長的な価値観にしがみつく父親との断絶と、親の権威の低下が問題になっていたのです。。
当時まだ生まれていない方にとって、たとえば大阪万博ってどんなイメージでしょう。
画像
学生運動……https://matome.naver.jp/odai/2147781016413529001/2147781113315081003
大阪万博……https://taiyounotou-expo70.jp/about/expo70/
アポロの月面着陸……http://o-dan.net/ja/
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この記事へのコメント
同作品は、「下り坂に入りつつあった時期」ということで、逆にとても興味深いですね。ぜひ観てみたいと思います。緑魔子はいろんな作品で観ていますが、夫が石橋蓮司なのですね。今初めて知りました(笑)。それにしてもあらためてフィルモグラフィをチェックしてみると、おもしろそうな作品がずらりですね。特に、1965年に『ひも』『いろ』『かも』と平仮名二文字のタイトルが並んでいるのが目を引きます。何やらおもしろそうですね。
>高度経済成長の終わりを予言
それだけ高度経済成長期にフィットした映画であり、スターだったということでもあるのですね。現在は何十作も続く映画シリーズはちょっと考えられない状況だけに、かつて多く制作されていたシリーズ物の浮沈がどのような理由で生じていたのか、文化史的にもおもしろいテーマですね。それにしてもそうしたことを踏まえても、『男はつらいよ』がいかに時代を超越しているかを再認識させられます。
大阪万博については以前にも記事で書きましたが、家庭内で「大阪万博に行くか、カラーテレビを買うか」というテーマがあって、結局後者を選んだのですが、出不精の父には最初から前者の選択可能性はなかったのではと、今では思ってます。ただ、太陽の塔を筆頭に、この時の万博はいかにも国民全体の祭りというイメージは子ども心に持っておりました。まあ万博というもの自体をよく理解してなかったとは思いますが、確か「パビリオン」という言葉も当時知って、すごく未来的なイメージを持ちました。
そして時代は変わり(笑)、今では万博には一切興味無くなっております。万博をやっていた時にバレエ鑑賞のため愛知へ行ったのですが、バレエ観て、名古屋駅でひつまぶしなどを食べて、それで終わり(笑)。「万博へ足を運ぶ」という選択肢はゼロでしたし、そもそも万博で何をやっているかも一切知りませんでした。
・・・
>果物の生ジュース
母にも野菜ジュースなど積極的に飲んでもらいたいのですが、なかなか多く飲んでくれないのです。ヨーグルトも好きではないし、けっこう難しいです。そう言えば数日前に安かったので青汁を初めて飲んでみたのですが、極端に不味いとも感じませんでした。美味しくはまったくありませんでしたが。体にいいならあのくらいの不味さはわたしなら問題ないですが、母にはとても無理だなあと。
>自分が困っている時にきちんとした仕事をしている人などは眩しく見えますね。
確かにそうでしょうね。そして、自分にはとてもできない仕事を毎日バリバリやっている姿は(ほお~)という感じです。母の入院前はせいぜい2か月に一度の母の定期検査で足を運ぶくらいだったので、今回のように毎日かなりの時間を病院で過ごしていると、医療スタッフへの敬意は増します。記事でも書きましたが、カフェで看護学生が勉強している姿をよく見かけるんです。彼女たちのほとんどは体格も普通の若い女性で、いかにも背系知らずという印象なのですが、仕事を始め、経験を積んでいくと、体形も雰囲気も(いい意味で)変わるのでしょうね。 RUKO
植木さんがやくざ役はにあってないけどおもしろそうですね。
>当時まだ生まれていない方にとって、たとえば大阪万博ってどんなイメージでしょう。
当時はどのような催し物があったのかを知らないのですが。「太陽の塔」と「月の石」だけは知っていますね。
私も、正直言いますと、クレージーキャッツとか寅さん映画のどこが面白いのかさっぱりわからないところがあります。
古い映画でも、ストーリーとか人間描写がしっかりしているものは面白いと思ってみますけど…ギャグはさっぱりです( ;∀;)
万博は、私は行ってませんが、小学校で友達が「新幹線に乗った」とか「月の石を見た」と自慢していました。ちょっと羨ましかったかな。
断絶男・・どんな意味なのか考えてしまいます。
緑魔子、懐かしい、妖艶な雰囲気でした。
セクシー悪女風。