笠原良三、西欧合理主義とヒューマニズムに根ざした喜劇
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今日は笠原良三さん(1912年1月19日~2002年6月22日)の命日です。森繁久彌の社長シリーズ、植木等の日本一シリーズ、加山雄三の若大将シリーズなどのほか、お姐ちゃんシリーズ、または『父ちゃんのポーが聞える』のような実話作品も含めて東宝映画の脚本を多く手がけました。
笠原良三とは誰だ
笠原良三さんは、日本大学芸術学部中退して、1936年に日活多摩川撮影所脚本部に入社。
その後、新興シネマ脚本部⇒大映東京撮影所脚本部と所属をかえ、1955年に東宝撮影所と契約します。
1960年代は、社長シリーズ、クレージー映画、若大将シリーズなど、東宝の屋台骨を支えてきた人気シリーズだけで65本も執筆しています。
昨年1月19日のこのブログの記事では、タイトルの通り、『父ちゃんのポーが聞える』を中心にご紹介しました。
⇒笠原良三、1960年代東宝昭和喜劇と『父ちゃんのポーが聞える』
ハンチントン舞踏病という難病で、体が少しづつ動かなくなり、やがて死を迎える少女(吉沢京子)が、片思いの男性(佐々木勝彦)への恋心に生きる張り合いを求め、C58の機関士である父親(小林桂樹)が、療養所の近くを通るたびに汽笛をポーっと鳴らして知らせる話です。
原作は、小学6年で発症。21歳まで闘病生活を送った『父ちゃんのポーが聞こえる <則子・その愛と死>』(立風書房)という実話です。
笠原良三さんは、冒頭に書いたように、東宝の1960年代の看板だった3シリーズを執筆しているので、今回は若大将シリーズからご紹介します。
若大将シリーズとは何だ
『大学の若大将』鑑賞。水泳部に所属するハイスペック男子の学生生活を描いた杉江敏男監督作品。青春映画史上最もポジティブな主人公にはとても元気づけられる。多少のデフォルメはされているとはいえど、昭和30年代の大学生は本当にこんな痛快カレッジ・ライフを送っていたのだろうかと興味津々。 pic.twitter.com/Tn0WFDhXZh
— だよしぃ (@purity_hair) May 26, 2019
若大将シリーズというのは、主人公・若大将(加山雄三)の青春時代(大学⇒社会人)が舞台です。
合計17作(81年の『帰ってきた若大将』を入れて18作)作られました。
加山雄三演じる田沼雄一は、飯田蝶子を祖母、有島一郎を父、中真千子を妹に持つ、すき焼き店『田能久(たのきゅう)』の長男です。
大学の授業中、ごはんの上に牛肉をたっぷりのせたドカベンを早弁してバレたり、部活の合宿ではトイレの浄化槽の蓋を使って焼肉をしたり、他者のしくじりを誤解した父親に勘当されても、言い訳もせず後で結果を出すことで無実を証明したりと、とにかく痛快で、失敗もありますが、大変おおらかであまり気にせず格好いい青年です。
その若大将に、対抗意識を持っている青大将(田中邦衛)や、若大将が好きなばかりに、誤解したりヤキモチを焼いたりして若大将を振り回す、スミちゃん(星由里子)などか絡んでストーリーを展開させます。
毎回、若大将は何かスポーツをしていて、最後にはその大会で勝って、スミちゃんが「好きよ、好き好き」と告白してエンディングという展開が、毎回毎回観る人を裏切ることなく繰り広げられます。

『日本一の若大将』より
東宝で売り出し中の、加山雄三のキャラクターを全面開花させたものであり、加山雄三自身の人気と相乗効果的にポピュラリティを獲得していったといえます。
これを見ると、きっと誰でも「大学生活って楽しいんだなあ」と思います。
もちろん、映画ですから、かなりデフォルメされているのですけどね。
それで、当初の予定では、『大学の若大将』『銀座の若大将』『日本一の若大将』という3作で、シリーズは完結する予定でした。
その3作を、笠原良三さんが書かれたわけです。
ストーリー的には、3作目でほぼ完結しており、若大将は就職試験を受けて内定をもらっています。
大学生の若大将が就職するところで、物語も終わる予定だったのです。
ところが、映画があまりにもおもしろくて好評だったため、その後も作り続けられ、4作目には若大将はまた大学生に戻ってしまい、そのうち加山雄三が30歳になってしまったので、さすがに卒業させましたが、今度はサラリーマンになってからの若大将という設定で、ヒロインを星由里子から酒井和歌子に替えて結局17作も続いたわけです。
若大将シリーズ、ご覧になったことありますか。
アグレッシブで失敗や弱さも隠さない
そして、クレージー映画は、植木等主演の「日本一」シリーズ10作中前半の5作を書かれています。
それらのストーリーはたいてい、徒手空拳、手元不如意の植木等が、アイデアや行動力で仕事を大成功させる、でも天下を取って結ばれたマドンナには頭が上がらない、というオチで終わることになっています。
社長シリーズの森繁久彌が、仕事も成功させる一方で、すぐマダムと浮気がしたくなり、でもうまくいかない、というオチもこれまでこのブログで何度かご紹介しました。
3作品に共通して言えるのは、身過ぎ世過ぎのため人を陥れたり自分が我慢をしたりせず、後悔しないように生きるなら失敗しても仕方ない、つまり、何もしない後悔よりとにかく自分の力でやってみよう、結果はあとから付いてくる、という生き方です。
明るく楽しくアグレッシブな生き様です。
けだし、多くの人の心を引きつけるはずです。
笠原良三さんの息子さんの笠原宗之さんと私は、Facebookの「友達」ですが、先日、興味深い笠原良三さんの寄稿を紹介されていました。
笠原良三さんは、ご自身の作品についてこう書かれています。
主に大衆娯楽を目的としたもので、いわゆる芸術作品ではありませんが、私自身、大衆の一人として、映画は、二三の特殊な例を除いて、それが本当の道だと思っております。しかし、娯楽のためとはいえ、親に反対され恋人と別れるとか、社長の対する忠誠から非人間的なことをあえてするかという、封建的人間像は書きたくありません。何が書かれているかというと、要するに、旧弊な封建的人間像を否定して、自由とヒューマニズムを両立させる人間像を描きたい、ということが書かれています。
やはり、西欧に発達した合理主義やヒューマニズムが、人間として生きるには大切なことだと思っているからです。したがって、私のサラリーマンものの場合、社長といえども、普通の人間の一人であり、平社員といえども、人間としてのプライドを持っているように書くことにしています。
謹厳にしてかつ人格高潔たらんとする社長も、人間なればこそ美女を見ればよろめきたくなり、奥さんもこわいという、喜劇のシチュエーションが生まれます。またともすれば、長いものにまかれたくなる平社員も、どたんばになれば、やはり、人間としての自覚に目覚め、生殺与奪の権をにぎる上役に反抗する勇気をふるいたたせるのです。
社長シリーズ、日本一シリーズ、若大将シリーズ、改めておススメします。

大学の若大将 - 加山雄三, 星由里子, 団令子, 江原達怡, 田中邦衛, 北あけみ, 杉江敏男, 笠原良三, 田波靖男

ひばり チエミ いづみ 三人よれば - 美空ひばり, 雪村いづみ, 江利チエミ, 宝田明, 夏木陽介, 高島忠夫, 岡田真澄, 清川虹子, 福田公子, 北川町子, 石橋エータロー, 杉江敏男, 笠原良三, 田波靖男
この記事へのコメント
考えさせられます。
ワンパターンですが、でももし負けてしまうと、なんとなくスッキリ
しないと思うので、わかっててもそのとおりの展開って
精神衛生上大切なんですね(笑)