『妻、小学生になる』(村田椰融、芳文社)貴恵と圭介の結末と仏教

『妻、小学生になる』(村田椰融、芳文社)は、10年前に亡くなった妻が、ある日生まれ変わった小学生になって帰ってきた話です。 『週刊漫画TIMES』にて不定期連載され、2022年1月21日からTBSテレビにてテレビドラマ化されました。テレビドラマは、数字的に苦戦が言われたこともありましたが、尻上がりに評判は良くなりましたね。
私は、ドラマ化される前から原作のファンで、ドラマが終了してからも連載が続いていたので、ずっと読んでいました。

愛する人を突然失い、人生消化試合になっている時、その人が蘇ったらどんなに嬉しいでしょう。
10年前に亡くなった妻が小学生になって帰ってきた
【続報】「妻、小学生になる。」TBS系にて連続TVドラマ化!
— 週刊漫画TIMES 公式 (@shukanmanga) November 5, 2021
放送は2022年1月金曜よる10時スタート。
主演・新島圭介役は実力派俳優、堤真一です。
心温まる家族再生の物語を、どうぞお楽しみに!#つましょー pic.twitter.com/D6EPDOEQEk
やはり人気漫画の『セブンティウイザン~70才の初産~』(タイム涼介、新潮社)もそうですが、「ありえないかもしれないけど、できれば本当にあってほしい」設定が、まず読者の購読意欲をそそりましたね。
新島圭介は、娘の麻衣と2人暮らしです。
妻の貴恵は、10年前に自宅近くの交通事故で早逝しました。
以来、圭介は魂の抜け殻になったような、消化試合人生を送っています。
そんなある日、娘とコンビニ弁当の夕食を食べていると、ピンポーンという音が。
圭介が出てみると、ランドセルを背負った小学生女子。
他界した妻が生まれ変わって、小学生になって会いに来る話。① pic.twitter.com/e2nTbtQHhY
— 村田椰融 (@yayu_murata) April 15, 2019
しかも、「ただいま」と。
「……えっと 君……。どこか他の家と間違えて……」
「間違えてないわよ!ここは私の家!私は新島貴恵!あんたの妻!麻衣の母親!」
小学生は、圭介がプロポーズした場所、結婚記念日、家族旅行など、妻でなければ知り得ないことを知っており、貴恵であることを否定しようがありません。
「小学生の貴恵」が言うには、亡くなった年に輪廻転生で、別の夫婦に宿った生命に転生して、また人生やり直しているのではないか、たまたまこの近くを通ったら、急にパーッといろいろ思い出してきちゃった、とのこと。
以来、貴恵は圭介にお弁当を作ってあげます。
圭介は、「小学生の貴恵」を、人前でもすっかり以前の貴恵のように妻扱いしますが、周囲から見れば小学生。
貴恵は何度も注意しますが、圭介は、せっかく夫婦でいられる貴重な時間を、ごまかしや演技に費やしたくないと言い、貴恵も自分を好きすぎる圭介に呆れながらも、満更でもない様子なので結局許しています。
貴恵も、本当は見ることができなかったはずの、夫と娘の成長を見られることが、「正直……めちゃくちゃ嬉しいわ」と言っているほどです。
2人は10年ぶりの「再会」で、お互いの気持ちが変わらないことを確認。
「小学生の貴恵」が、18歳になったら「再婚」することまで約束します。
が、実は、貴恵は輪廻転生ではなく、憑依であり、小学生・白石万理華の身体と時間を奪っていたことがわかります。
そして、2人は話し合ったわけではありませんが、ともに白石万理華に身体を返して、貴恵が今度こそ成仏することを選択します。
原作はドラマとは違い、終盤はかなり厳しく辛い展開で、貴恵がこの世の未練を遺さないように圭介が厳しい態度を取っています。
最終回までの数話は、ちょっと読んでいて暗い気持ちになりましたが、亡くなった人は戻らない、という哲理をくずして、圭介と貴恵を安易に結婚させめでたしめでたしでは、作品の価値も失われてしまうような気がするので、それしかなかったんだろうな、と思います。
まあ、このへんは読者によって意見も希望も様々かと思います。
亡くなった人を成仏させるのは仏教の影響か
亡くなった人が、別の人にのりうつったり、特定の人には見える形でこの世に復活したりする話は、これまでにも映画やドラマでしばしば使われた設定です。
前者では、私の記憶では『天国から来たチャンピオン』という洋画がそれにあたります。
「天国から来たチャンピオン」(78)。天国のミスで早く死んだアメフト選手が、妻とその愛人に殺された大富豪の体に乗り移りトラブルに巻き込まれるが、アメフト精神で乗り切り、プロチームを買い取ってスーパーボウル出場を目指す。「ゴーストもの」の元祖にして今の異世界転生だね。いやー、完璧だわ pic.twitter.com/2ot9NW0tjJ
— おちょごさん (@chogo2009) April 25, 2023
主人公の男性は2度亡くなってしまうのですが、2度とも別の男性の身体で蘇り、恋人と再会。
おそらくは、今度こそ結ばれることを示唆しています。
ただし、男性のそれまでの記憶はすべて失われています。
つまり、事実上別人です。
後者は、たとえば『あなただたけこんばんは』(1975年7月26日~1975年9月27日、フジ)という、倉本聰さんが脚本を担当し、若尾文子さんが主演したドラマがあります。
妻(若尾文子)は病死したのですが、夫(藤田まこと)のことが心配で極楽浄土に行けず、現世に残っています。
ただし、誰にでもその姿が見えるわけではなく、夫の兄(中条静夫)が寝ている時に枕元に現われ、兄は若尾文子さんの話を屋根の上で誠実に聞いてあげます。
最後は、夫が再婚するのを確認し、成仏しました。
ほぼ同じようなストーリーで、フランキー堺さんと日色ともゑさんによる『喜劇 怪談旅行』(1972年、松竹)もあります。
6月4日は日色ともゑさんの誕生日とのこと。映画では瀬川昌治監督『喜劇 怪談旅行』(72)の幽霊はキュートだった。同監督『瀬戸はよいとこ 花嫁観光船』(76)でもコメディエンヌぶりを発揮。 pic.twitter.com/Ocpaz45xTZ
— さんぴん奴 (@sanpinyakko) June 4, 2022
『天国から来たチャンピオン』が、亡くなった人が蘇り、たとえ記憶を消されても恋人と結ばれるのに、日本の映画、ドラマ、漫画がそうならないのは、やはり背景には宗教の違いがあるかもしれません。
人命も、神様の差配のうちにあるとするキリスト教と、絶対的創造主は前提とせず、諸法無我の中で、あらゆる物は生成発展消滅を繰り返すとする仏教の違いではないかと思います。
たとえ物語でも、諸法無我のことわりを壊してはならない、という律儀さを感じました。
ですから、日本は宗教色の緩い国のような見方をされがちですが、それは特定の一神教の経典に縛られていないだけのことで、文化価値観、風習などは、神道と仏教の影響を多分に受けていると思います。
むしろ、信仰がない人まで、特定の宗教を源泉とする価値観や風習に囚われている、という点で、とにかく信仰に関するものには忠実になってしまう傾向があるかもしれません。
新興宗教にとっては、それだけ与し易い国民なんでしょうけどね。
ツマショー、ご覧になりましたか?

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この記事へのコメント
10年もどこをフラフラしていたんだ(笑)
この本、久々に読みたくなりました・・・(^-^)!!
別の「おっさんが小学生」という転生ものを読んで,面白かったり,子供転生ものも大好きです.
人生を考え直す,考えさせられる物語が多いと思います.
ではでは.
ラノベなどいっぱい出てますねアニメも
最近はこの手の作品飽きちゃってます。
転生してやり直すみたいな考えってどうかなって思います。
「ありえないかもしれないけど、そうであってほしい」という設定が魅力的ですね。原作読んでみたくなりました。
貴恵は厳密に言うと、「転生」ではなく「憑依」です。
これは、実は仏教からも外れているモチーフなのですが(仏教は憑依は認めていない)それでいて、仏教の諸法無我のことわりにこだわっているところに、著者の潜在的な仏教への囚われを感じたわけです。