最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 (下駄華緒著、蓮古田二郎著、バンブーコミックス エッセイセレクション)

火葬場――多くの人にとっては人生で数度しか足を踏み入れない場所。しかし、誰もがいつかはお世話になる場所でもあります。その「知られざる現場」を、元火葬場職員・下駄華緒さんの体験をもとに描いたコミックエッセイ『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(漫画:蓮古田二郎、バンブーコミックス エッセイセレクション)は、累計13万部を超える大ヒット作となり、多くの読者に衝撃と感動を与えています。
原作は、YouTubeチャンネルもあり、単行本化されている『火葬場奇談』です。
その漫画化です。
著者の下駄華緒さんは、1万人の遺体を見送った、元火葬場職員。
厚生労働省の統計によれば、2021年度の火葬率は99.97%に達しており、これは世界的に見ても極めて高い水準です(出典: 朝日新聞GLOBE+)。
つまり、ほぼ全国民に関係する重要な施設であるのが火葬場です。
いきなり余談ですが、どうして100%ではないかというと、ごく少数ながら火葬以外の方法、主に土葬が選択されているケースは存在します。
北海道や山梨県、茨城県など、一部の民営霊園では、宗教不問の区画や、キリスト教・イスラム教徒向けの区画として土葬を受け入れている場所が存在します(出典: ライフドット)。
日本の法律「墓地、埋葬等に関する法律」(墓地埋葬法)では、埋葬(土葬)そのものを禁止してはいないのでそれは可能になっているのですが、数字から見て「例外」といっていいでしょう。
本書は、著者(原作者)を含めて6人の火葬場職人が登場。
火葬場の噂、実録火葬場事件簿、火葬・葬儀の裏側、火葬技士の証言の各章をとおして、火葬場はわからない場所、わからないままではもっと不安と云う、今までモヤのかかっていた火葬場の真実を漫画化しています。
著者(原作者)の下駄さんは、「人生の締めくくりに立ち会う仕事がしたい」と火葬場職員となり、日々さまざまなご遺体と向き合いながら成長していきます。
漫画を担当するのは蓮古田二郎さんです。温かさと、時にぞっとするリアリティが同居する、独特の画風です。
物語の流れと主なエピソード
下駄華緒『火葬場奇談』#読了
— macri coyote (@coyotebook) August 28, 2023
元火葬場職員による本
著者が怪談Youtuberなので、怖い話の本かと思ったら、業界を紹介するような本だった
100年後に人類学や民俗学の資料になりそう
自分の家族が、焼かれて骨になるってなかなかの体験ですよね pic.twitter.com/ruHJ8CMRj1
物語は、下駄青年が火葬場の門を叩くところから始まります。
入社テストは、「火葬炉の火の中で動くご遺体をしっかり見守る」という、普通の人なら尻込みしそうな内容。
しかし、下駄青年は、それを乗り越え、晴れて火葬場職員となります。
その後、下駄青年は次々と衝撃的な現場を経験します。
1.火葬炉の火の中で動くご遺体
火葬中にご遺体が動く現象は、現場では珍しくないこと。初めて目の当たりにした下駄青年の戸惑いと、先輩職員の冷静な対応が描かれます。
2.水死体や重度肥満のご遺体の火葬
水死したご遺体は体内に大量の水分が残り、火葬時に独特の現象が起こることも。体重250キロを超えるご遺体の火葬では、炉の温度管理や作業の工夫が求められます。
3.死刑囚や死産児の火葬
社会的な背景や遺族の想いが複雑に絡む火葬も多く、下駄青年は「命の重み」と「送り出す責任」を痛感します。
4.人身事故や事件のご遺体
電車の人身事故で亡くなったご遺体には、線路の小石が一緒に納められていたというエピソードも。駅員がバラバラになったご遺体を少しも残さず拾うため、石と一緒に納棺したのだろうと推察され、現場の人々の誠実さが伝わります。
5.本人は生きているご遺体
もちろん、生きた本人を焼いてしまうわけではありません。たとえば腕や足など、体の一部を様々な事情で切断した場合、その「パーツ葬」を行います。そして、将来ご本人が亡くなったら「本体」に合流されます。ただし、小さいと焼却炉の中で飛んでしまうので、指の第一関節より先、なんていう場合は病院で廃棄物扱いになってしまうのだとか。
6.火葬場職員への偏見や差別
「死」に関わる仕事ゆえに、社会から偏見や差別を受けることもあります。それでも「人生の最期に立ち会える尊い仕事」として誇りを持つ職員たちの姿が描かれています。
火葬場の仕事のリアル
本作の最大の魅力は、「火葬場職員の仕事のリアル」が余すところなく描かれている点です。
知られざる業務の数々
- ご遺体の状態や背景に応じて、火葬の方法や手順を臨機応変に変える
- 火葬炉の温度管理や安全確認
- 骨上げ(遺骨を拾い上げる作業)や遺族対応
- 事件・事故・死産児など特殊なケースへの対応
- 火葬場内の衛生管理やメンテナンス
また、壮絶な現場に向き合いながらも、遺族や故人に対する思いやりを忘れない姿勢が、読者の心を打ちます。
命の最期を見届ける仕事の尊さ
以上のように本書は、普段は目にすることのない火葬場のリアルな日常を、時にユーモラスに、時に厳粛に描かれています。
- 火葬場職員の知られざる苦労や誇り
- 「死」と真摯に向き合う現場のリアル
- 命の最期を見届ける仕事の尊さと責任
「焼き場だけはどうしても苦手だ」と、骨上げの参加だけはどうしてもできないという方もおられますが、「人生の最期に立ち会う」という仕事の重みと意義がひしひしと伝わってきます。
本書によって、火葬場という場所が少しだけ身近に、そして尊いものに感じられるはずです。
ご自身の経験された火葬場でのエピソードはありますか。

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 (バンブーコミックス エッセイセレクション) - 下駄華緒, 蓮古田二郎
この記事へのコメント
葬儀(骨上げ)には何度か立ち会いましたが、内容に関しては無知でした。
火葬の経験談など興味深い面もあり読んでみたいと思う反面
リアルを知りたくない自分も居ます
骨上げに参加するかもしれませんが心を込めてお見送りを
2回目は義父の葬儀で、かなり大きな火葬場だったと記憶しています。
そして、火葬もかなり順番待ちがあって何日か遺体を冷蔵してたと思います。
nice!です。
ペースメーカーを埋め込まれている方は埋め込まれた電池が破裂するとか、炉の火加減も思っているよりも難しい等...
斎場へは2回行った記憶が有ります、骨粗鬆症の骨は軽くまるで発泡スチロールのようだったり焼却のスタートボタンを押したり…
亡くなってしまった事については悲しいですが毎日涙を10リットル流しても生き返る訳ではありませんから、7日毎×7回目の最後の裁判で六道か極楽浄土かが決まり仏の元へ行く四十九日と言う区切りが有るのでしょうね。
要するに死に向き合ってない!避けていたんだなとこれを読んで感じました。
こういう職業があるのは知っていても、避けているだけにそう言う方たちの心を組みとる事や気持ちを考えた事はなかったです。
こうして身内でもない方たちの最後の時を真摯に見届ける場面を教えてくれる事は尊いと思いました。読んで見たくなりました。
頭の部分の骨が、全く火葬場で貰え無かった人間が居ますね。
感情移入しないで粛々と淡々としないと色々辛くなりそうだもんね。
一瞬、葬儀場で働く女性のドラマを思い出しました。
確か、ご遺体と会話出来て、最後の頼みごとを解決する内容だったと思います。
大変なお仕事ですよね (^_^;)
小学生の頃、納骨堂ができて、墓場から遺骨を掘り上げる作業を見た記憶があります。髪の毛は遺っていました。こちら今日はポツポツ雨でスタート。
ナイス!です。
明るくてスタイリッシュな建物で、ホテルのコンシェルジュのような係員さんが丁寧に対応してくださって、随分昔とはイメージが違うなと思いました。
母は両足に人工関節を入れていましたので、お骨上げの際には綺麗に残っていました。
ひとつひとる骨を拾いながら、故人の人生を思いつつ死を受け入れる、次へ踏み出すだめの大切な時間だと私は思います。
職員さん側からすると思いもよらぬ出来事もあるだろうなと推察いたします。
母親の時は入棺の時機械の不具合があり
やり直しましたが、
その時は立ち会う親族が遅れて
その後全員揃い無事火葬が終わりました。
ナイスです♪
市役所役人、左遷場所だとも聞きますが、色々な家族模様も伺われることでしょう〜
昔は、土葬が当たり前の茨城県でしたが、今は、火葬ご主流になりました!!
田舎の昔の火葬場は、スイッチは家族 叔母の火葬の時裏で炎をみた経験も。
今は新しくなり、そんな事は出来ませんけど。
火葬場従事者は大変なお仕事と察します。
お別れを,火葬場・骨上げ参加はしませんでした。