日本の半導体産業は「復権」か「出直し」か

巷間、「日本の半導体産業復権」という言葉がトレンドワードになっています。TSMCの熊本工場稼働や、次世代半導体国産化を目指すラピダスへの巨額投資など、確かに話題に事欠きません。しかし、冷静に現状を分析すると、これは「復権」というより「出直し」と表現するのが適切ではないでしょうか。
ということで、今日は、日本の半導体技術・産業の歴史を振り返ってみたいと思います。
半導体というのは、導体(電気を通す)と絶縁体(電気を通さない)の中間の性質を持つ物質のことです。
条件によって、電気を通したり通さなかったりできるため、電子機器の動作を制御するために広く利用されています。
例えば、トランジスタや集積回路(IC)は、半導体を用いて作られています。
半導体は今や、自動車や情報機器、医療機器などの製品に必要不可欠な部品です。
さて、その半導体ですが、1988年には世界の半導体売上高に占める日本のシェアが50%を超え、日立、NEC、東芝、富士通、三菱電機といった「日の丸半導体」企業が世界市場を席巻していました。
日本の半導体産業は、文字通り世界を支配していたのです。
この時期の日本は、半導体製造において圧倒的な技術力と生産力を誇っていました。
しかし、1990年代以降、その地位は急速に失われていきます。
2024年の予測では、日本の半導体シェアはわずか7.6%にとどまります。
ピーク時の50%超から見ると、その落差は歴然としています。
「気の遠くなるような試行錯誤」を行なわなかった日本
特に先端ロジック半導体では、台湾のTSMCが世界シェアの約60%を占める一方、日本企業は事実上、競争圏外に置かれています。
2nm、3nmといった最先端プロセスでは、TSMCと韓国のサムスンが寡占状態を築いており、日本企業との技術格差は10年以上に及んでいます。
10年ですよ、10年(涙)
今、管理職で働いている人が、定年まで働いても追いつかないのではと思います。
先日、ご紹介した、深田萌絵さんが、台湾の半導体大手TSMCに対して、日本政府が熊本の工場に1.2兆円の巨額補助金を行ったことについて、「国内企業に金を出せ」と主張しています。
しかし、(中国に技術を取られないよう)半導体を守る「企業への投資」という観点から見ると、常識的に考えて、国内メーカーよりはTSMCだろうというのは斯界を知るジャーナリストや技術者らの一致した意見です。

深田萌絵さんの主張はウソばかり!半導体産業の現実を正しく理解しよう【朝香豊の日本再興チャンネル】より
https://www.youtube.com/watch?v=uitNC-1p6cY
私は、台湾のTSMCにしろ、韓国のサムスンにしろ、「気の遠くなるような試行錯誤」を行って、現在の技術的成功を獲得した、というくだりにシビれました。
それだけの努力をしたのですから、彼らが今、日本を凌駕したことも文句は言えません。
これって、わたしたちの仕事や学業にも同じことがいえませんか。
気の遠くなるようなゴールでも、諦めずに取り組むからこそ道は切り開けるのです。
とにかく、日本は簡単に追いつけないほど負けたのです。
隠れた世界王者
では、日本の半導体技術・産業は完全に4んだかというと、そんなことはありません。
半導体デバイスでは劣勢の日本ですが、経済産業省の調査によれば、半導体製造に不可欠な装置・材料分野では依然として高い競争力を維持しています。
半導体製造装置:世界シェア約31%
半導体材料:世界シェア約48%
東京エレクトロン、ディスコ、アドバンテスト、信越化学工業、JSR、住友化学など、これらの企業は、世界の半導体サプライチェーンで不可欠な存在となっているのです。
台湾のTSMCも韓国のサムスンも、日本の装置・材料なしには最先端半導体を製造できません。
この分野での優位性こそが、日本の半導体産業回復の現実的な基盤となっています。
そして、日本政府は2021年から本格的な半導体復権戦略を開始しました。
経済産業省の戦略では、2020年時点で約5兆円だった半導体関連企業の国内生産合計売上高を、2030年に15兆円超とする野心的な目標を掲げています。
ただし、ポジション的には謙虚に、「復権」ではなく、地道な「出直し」を通じて新たな競争優位を築くことが求められています。
政府の投資も、持続可能な競争優位の構築に向けた現実的な目標にシフトすることが重要です。
日本の半導体産業の未来は、こうした現実的な戦略の先にあると考えられます。
日本先進国幻想は捨て去れ
ネトウヨはもちろん、いわゆるパヨク側にも感じるのは、「日本先進国幻想」です。
日本は本気を出せばすごいんだ(右)
日本は先進国だから他国にも譲歩してやれ。2位じゃダメなんですか。(左)
20世紀終盤、NICSなんて途上国呼ばわりされたことで発奮し、必死になってがんばってきた中国・韓国・台湾。
一方、GDP2位で調子こいて、上から目線で余裕かましていた日本は、今やGDP4位転落。5位がすぐそばにきています。
本文で書いたように、現状で普通に戦っても「NICS」にかなわないんですよ。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」といいますが、落ち目の国は、そうした国々に好き勝手蹂躙されています。
この現実を受け止めて、日本が今度は逆に、当時の中韓台のマネをして巻き返すしかありません。
「本気を出せばすごいんだ」と言っているうちは、ただの負け惜しみです。
実際に本気を出さなければダメなんです。
技術力への投資は、教育への投資も含むべきです。
何度も繰り返し書いていますが、知力にまさる国力なしです。
なにも、1億2000万人全員に博士号を取れ、という話ではありません。
次世代の若者が、学びの道を進むことを妨げられないように掃き清める。
高校無償化なんてインチキではなくて、高等教育への動機づけを広げる(奨学金対策とか履修者の報酬を上げるとか)。
再チャレンジなんて言葉もありましたが、社会人からの復学者の奨学金もちゃんと考えてほしいですね。
日本の半導体技術と産業の現状、ご理解いだけましたでしょうか。
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この記事へのコメント
今や、中国・韓国・台湾の勢いはすごいですもんね。
自分の使っているスマホも韓国製のものだし…
政府は、議員数減らしてでも国内の産業や教育にもっとお金をかけるべきですね。
少子高齢化で数量勝負は望めない以上強みに特化するしかないでしょう。
ただ近年は粗悪品が大量に出回り信頼性が低下した事で国産メーカーが信頼性の面の評価が高くなってきているようです。
教育面では円周率を3にする等の愚策や実験が危険だからしないと言う風潮も手伝ってか理科離れと言われ底辺開発して来なかったしっぺ返しが来ている事も含め少し寂しいですね、私的には理科が好きなのでお子さんにはもっと興味を持って欲しいです。
マイナスからのですが。。。
助かったと、つくづく思いましたねぇ。どうやら、
日本に希望の光がほとんど無さそうと、記事を読んで
悟りました。
タイトルに敏感に反応しました・・・
これは出直し、すべてのことを反省して取り組んでいって
欲しいですね。 コスト優先で色んな技術を放り出すような
ことは二度としないことですね。
半導体関連ですが、一時期「文字通り世界を支配」していました。台湾のTSMCに関しては色々な意見ありますが、国内誘致には両国間のメリットありですね。また、仰る通り半導体製造装置や半導体材料のシュアは多く、強い分野です。半導体の検査装置の開発に携わっていますが、日本はパワーデバイス・パワー半導体の領域・強化が必要かな?市場規模の拡大が見込まれる分野です!?(=^・ェ・^=)
うち2社は日本で、もう1社はオランダということです。
国内メーカーは微細化への対応の開発が一歩遅れていると聞いています。
しかし、韓国のサムスンの知名度には驚きでしたが、
と共に、日本の半導体の話題が上がる度に、付いて行けない話になりました。
そーですね、『復権』よりも、『出直し』が適切かなあ~
そのうえで、『コレが無いと生産できません』といった基幹技術を抑えているあたりは、したたかな戦略と言っても言い過ぎではないと思った次第。
ともあれ、NICEです
その頃が懐かしいです。
出直して本気で突き進まないと、並み居る相手に追いつくのは難しいでしょうね。
家を作り上げる上でも、不可欠に!
難しい課題です!
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