劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代~(伊賀和洋著、彩図社)

劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代~(伊賀和洋著、彩図社)

劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代~(伊賀和洋著、彩図社)は、劇画の二大巨匠のもとで働いた作者の自伝マンガです。劇画ファンはもちろん、日本のマンガ文化に興味がある全ての読者にとって必読の書と言えるでしょう。


さいとう・たかをと小池一夫。

とくに熱烈な劇画ファンでなくても、ご存知でしょう。

さいとう・たかをは『無用ノ介』『ゴルゴ13』など、小池一夫は『子連れ狼』『御用牙』など、映画化やテレビドラマ化されたヒット劇画を著しました。

といっても、さいとう・たかをは作画、小池一夫は脚本(ストーリー考案)が専門です。

当初は、二人で組んで作品を世に出していましたが、小池一夫が独立しました。

お二人共、作品制作に原作と作画の分業制を採用して、漫画著作をプロダクションの作品としたことでも先駆者といえます。

さいとうプロの劇画家には、小島剛夕、川崎のぼる、平田弘史、水木しげるなどが在籍しました。

「ストーリー考案と作画の両方できる天才は、手塚治虫先生だけ」(さいとう・たかを)とのこと。

そして、本書の著者・伊賀和洋は、双方のプロダクションに在籍し、劇画の二大巨匠を見続けてきました。

伊賀自身が、漫画家生活50周年にあたり、改めて二大巨匠との漫画家生活を漫画で振り返ったのが本書です。

自分の作品を描きたくて移籍


伊賀和洋は、山形県南陽市の進学校に在籍していましたが、密かに漫画家になりたいと思っていました。

周囲が受験勉強している頃、さいとう・たかをプロのスタッフ募集にデッサンを描いて応募し、一次選考通過。

母親は反対しましたが、教師だった父親は、「自分の教え子は、みんななんとなく進学する。ヤりたいことかある人生はすばらしい。」と言って、ココロザシを認めてくれました。

そして、上京して本選考にも通り、2000人中4人の狭き門をクリアします。

最初は、さいとう・たかをの原稿制作に加わっていることに満足していましたが、だんだん欲が出て、自分の作品を描きたくなり、そんなころ小池一から誘いが来ます。

さいとう・たかをプロと、小池一夫の会社(スタジオ・シップ、現・小池書院)の違いは、後者が劇画家集団であり、スタッフでありながら自分の作品を描けること。


伊賀和洋は、悩んだ挙げ句、小池一夫の会社に移ります。

物語はキャラクターの確立が大切



本書には、当時現場で働いていたものにしか知り得ないエピソードが満載です。

興味深かったのは、物語はキャラ設定さえすれば、ストーリーは勝手に転がってくれるという話です。

『無用ノ介』は、壮絶な生い立ちを持つ隻眼の賞金稼ぎが、孤独な旅路の中で様々な人間ドラマに関わりながら、自分自身を見つめ直していく物語です。

上掲のOGPにあるように、「無用の子に生まれた用無し犬、この世に無用の悪を斬る、どうってことはねえんだぁ~」と人56しを厭わない賞金稼ぎです。

つまり、賞金のかかった人物を斬ることで暮らしていました。

しかし、悪者になりきれず、報酬もないのに悪い奴と戦う正義の味方になってしまうことがある。

さいとう・たかをは著者でありながら、そんな無用ノ介に惚れ込んでしまい、無用ノ介に56し屋なんかさせたくなくなってしまった。

でも、やめたら物語が終わってしまう。

そこで、代わりに登場した56し屋が『ゴルゴ13』だったそうです。

また、小池一夫は『子連れ狼』を描くにあたって、ストーリーは全く考えず、拝一刀が一子大五郎とともに、剣客稼業を続けながらさすらう、という設定だけを決めていたそうです。


キャラクターさえ確立すれば、ストーリーはいくらでも出でくると。

そのかわり、キャラクターについては、完璧にイメージできるよう徹底的に明らかにする。

かりにストーリー上出てこなくても、家族はどうなっているのか、子供の頃はどんな暮らしだったのか、どんな友達がいたのかまでも決めておく。

これは、小説家や放送作家も同じことをいいますね。

もうひとつネタバレですが、当初は長い連載の予定ではなかった『ゴルゴ13』の最終回は決まっていたものの、それと全く同じ展開を、先に『太陽にほえろ! 』のマカロニ刑事の殉職シーンで使われてしまったので、中止になったそうです。

今も連載は続いていますが、たぶんいつ最終回が来てもいいように、別のストーリーが考えられているのかもしれません。

昭和の劇画黄金時代を知る貴重な記録



さいとう・たかをさんは、1980年代後半に1度、取材をさせていただいたことがありますが、メディアに対しては腰の低い方でしたね。

本書では大阪弁ですが、私には標準語で話しておられました。

私はそれだけで、さいとう・たかを先生のファンになってしまいました。

居合術の名人だったそうですが、梶原一騎先生のように、腕自慢を披露して周囲に迷惑をかけることはなかったようです。

本書は、劇画やマンガの歴史に興味がある人はもちろん、創作活動に関わる全ての人におすすめしたい一冊です。

昭和の劇画黄金時代を知る貴重な記録として、そして現代にも通じる創作の精神を学べる教科書として、長く読み継がれるべき作品だと思います。

劇画というとどんな作品が思い出深いですか。

劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代~ - 伊賀和洋
劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代~ - 伊賀和洋

この記事へのコメント

もーもー
2025年06月30日 22:16
子供ながら、大五郎は、好きでした!
しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん
神様なんですね!
2025年06月30日 22:34
私は漫画も映画もテレビもほぼ見ない時代が長かったので、よくわからないんですよ!むしろここで勉強させて貰いました。有難うございます。
2025年06月30日 22:46
こんばんは、いっぷくさん。
子連れ狼はテレビ、ゴルゴ13は本のイメージが強いですね。
2025年06月30日 23:50
『ゴルゴ13』は良く読みました。
後は、弘兼憲史さんの『人間交差点』とか…
梶原一騎さんの『愛と誠』も記憶に残ってます。
2025年06月30日 23:58
お邪魔しました
2025年07月01日 01:59
NICEです👍
2025年07月01日 04:20
さいとうたかお氏亡きあともゴルゴ13が続いているのは凄いです。
2025年07月01日 04:56
おはようございます!
nice!です。
pn
2025年07月01日 06:23
子供の頃親父のエロ本盗み見してる頃の作品が好きだったんだが題名が思い出せない、復讐のなんちゃらなんだがあの頃のエロ漫画はみんな劇画調だったなぁ。
2025年07月01日 06:30
なるほど。「子連れ狼」は、個々の放送に互いの落差が少ないのは、
そのような、事情だったのですね。納得出来ました!
2025年07月01日 07:41
さいとうたかおといえば「ゴルゴ13」を思い浮かべる方が多いと思いますが、
私はなんといっても「無要ノ助」のファンです。
賞金稼ぎですが、ときには正義の味方にもなる。
全巻持ってます。
夏炉冬扇
2025年07月01日 07:46
お二人とも楽しませていただきました。
連日30度超え。夜風がないのがつらいですね。
2025年07月01日 08:38
かなり昔ですが、床屋での待時間に「ゴルゴ13」を読んでいたことを思い出しました(^_^)
koh925
2025年07月01日 09:04
日本の歴史的な人物も、小説より劇画で紹介すると
リアルで、記憶に残るでしょうね
2025年07月01日 13:12
漫画、劇画などほとんど見ません。子どもが見ているのを横からちらっと見た程度です。
2025年07月01日 13:54
ゴルゴ13に、そんなエピソードがあったなんて知りませんでした。
ずいぶん前に終わる予定だったんですね。
2025年07月01日 14:35
劇画はあまり見る事はなかったです。
2025年07月01日 14:39
漫画や劇画も全く疎くて済ませんです。拝見しました。
bgatapapa
2025年07月01日 15:29
niceどすえ~!(^^)!
kousaku23
2025年07月01日 16:33
ゴルゴ13は好きでしたね漫画は余り読まないですがこれにすっかりはまりましたね、結構な年齢まで読んでおりました。
2025年07月01日 19:14
ゴルゴ13は 私もよく 読みましたね
2025年07月01日 20:15
(# ̄  ̄)σ・・・Nice‼です♪
2025年07月01日 22:59
本はあまり読まない?特にマンガ本は手にした事無し?
テレビドラマは時々見ましたが(貧に追われて働きづめの日でした)
2025年07月02日 01:04
ゴルゴは、読んだことありますが、他のは名前を知っているくらいです
プロの職人集団と感じました