戦後史の激動

NHKニュースサイトで、「『AIが仕事を奪う』は本当か」という見出しで、アメリカのテック業界におけるレイオフの嵐やAI投資が雇用に与える影響、そして日本の現状について掘り下げている特集がありました。果たしてAIは雇用を奪ってしまうのでしょうか。

AIによる雇用喪失の現実

今日の情報源です。

「AIが私の仕事を代替できるとは考えていませんでした」
米テック企業をレイオフされた人の声、日本企業が“AI新人”を育てる現場──。
AIと人間は職場でどう共存していくのか？現場から見えた雇用のリアル。https://t.co/C3J0MH36yt

— NHKニュース (@nhk_news) October 29, 2025

番組によると、世界経済フォーラムの試算では、2030年までに世界で9200万人の雇用がAIなどで失われるとされています。

アメリカでは既にこの影響が現実のものとなっており、多くのテック企業（マイクロソフト、アマゾン、セールスフォースなど）が、「AIへの投資と組織のスリム化」を理由に大規模な人員削減を実施しています。

ある企業では、チームの7人中5人が解雇される事例も発生しているといいます。

つまり、 AIによって、これまで人が行っていた仕事が取って代わられる雇用喪失の現実はあるということです。

AIは単なるツールではなく、「人を雇う代わり」として導入されるケースが増えています。

アメリカでは
「AI面接官」や「AI人事部」などのサービスが登場し、採用や経理業務を効率化し、必要な人員を減らしています。

日本では
経理の経費承認業務をAIに置き換えた企業では、採用コストや教育リスクを考慮し、「人を雇うよりAIを導入する」という判断が下されました。

AIが「創り出す」雇用と可能性

とはいえ、専門家は、現在の人員削減を、たんなる「人からAIへの単純な置き換え」と見るのは「根本的な間違い」 と指摘します。

企業は、AIという新技術に資金とリソースを「再集中」させている過渡期にあるという見方です。

かんたんにいうと、従来の仕事のうち、AIでできることはAIに任せ、「余剰」となったマンパワーと資金は、新しい事業や産業に費やそうということです。

単純な「人減らし」ではない証明として、AIは逆に新しい雇用も生み出しています。

世界経済フォーラムは、AIで失われる9200万の雇用に対して、1億7000万の新たな雇用が創出されると試算しています。

AIで雇用が奪われるどころか、むしろAIでできることが増えることで、結果的にそのための雇用が増え、その方がむしろ多くなっているのです。

具体例として、アメリカのリサイクルショップでは、AIが商品の識別や説明文作成を自動化したことで、障害を持つ従業員がそれまで難しかった業務を担当できるようになり、作業効率が2倍に向上。

事業拡大に伴い、さらなる採用も計画されています。

つまり、たんに雇用が増えるだけでなく、障害者がハンディなく雇用される可能性が広がったということです。

AIは仕事の質を変える

番組の結論は、「AIは仕事を『奪う』のではなく、仕事のあり方そのものを変革している」 という点を伝えています。

企業と従業員はともに、AIと「どう共存し、どう活用していくか」 を真剣に考えなければならない時代が来ていることを示しています。

東京大学の渡辺安虎教授は、歴史的に見れば新しい技術が仕事を変えてきたのは当然であり、重要なのは「AIをどう生かして自分の生産性を高め、豊かな生活を送るかを考えること」 だと述べています。

わかりやすくするため大変荒っぽい言い方をしますが、AI時代をきちんと理解している人は、たとえば障害があっても、高学歴でなくても、自分の居場所はある。

一方、AI時代の変革についていけない人は、過去に実績があっても、高学歴でも、「だから何？」で落ちこぼされていくだろう、ということです。

つまり、これからは、学歴や職歴（キャリア）などの評価も、ガラッとかわっていく可能性もありますね。

心構えは？

朗報！AIに奪われない仕事35選！ pic.twitter.com/T9RkJ13Z8F

— いのま SEO伴走/AI記事作成代行 (@inomavtec) November 1, 2025

では、「AIとどう共存し、どう活用していくか」 というのは、具体的にどんな心構えや準備が必要でしょうか

個人がすべき準備は、「AIに代替されないように必死で抵抗する」 ことではなく、「AIという強力なパートナーをどう使いこなし、自分という人間の価値をさらに高めていくか」 という前向きな姿勢に変換することだろうと思います。

AIができることは、もうAIにはかないません。それを認めることです。

大学入学共通テストのマークシートで、高得点して東大に入っても、AIはそんなもの歯牙にもかけません。

一方で、AIが苦手な領域もあります。

それは、人間性が求められる領域です。

たとえば、ゼロから1を生み出すアイデア、芸術、戦略構築といった創造性、相手の感情を理解し、信頼関係を築くコミュニケーション力、AIの出力を盲信せず、それが正しいか、倫理的かを判断する批判的思考と倫理観、利害関係が錯綜したり価値観が複雑に作用したりする場で合意を形成させられる複雑な交渉力や説得力などは、まだまだ人間が行うべき領域です。

それらは、人と関わることで、生み出される叡智です。

それにはやはり、普段から倫理感の欠落した思考に陥らないとか、人を一方的に利用したり裏切ったりしないとか、素朴で当たり前のことですが、そうした理性や信頼関係を損ねない生き方の積み重ねこそが、実はもっとも大切なことだと思う次第です。

他人の身になって考えたり、約束は必ず守ったりしていますか。


AI失業 生成AIは私たちの仕事をどう奪うのか？ (SB新書 634) - 井上智洋