昭和のいる・こいる、もはや様式美ともいえる漫才3つのポイント

『昭和のいる・こいる ヘーヘーホーホー40年!』(ポニーキャニオン)を観ました。リリースされたのは2005年ですが、現在もほとんどパターンは変わっていません(笑)。1966年4月に「花園のいる・こいる」の名前でデビューしているので、来春に50週年を迎えます。(画像はDVDより)

昭和時代は、テレビで寄席を中継したり、演芸番組を制作したり、番組の出演者に芸人を使ったりすることはそれほどめずらしいものではありませんでした。
しかし、平成27年現在、地上波の演芸番組は、『笑点』(日本テレビ)ぐらいになってしまい、バラエティ番組に芸人が出演することがあっても、演芸場の“本職”とは違う、テレビコンテンツ用のキャラクターを求められるようになりました。
つまり、テレビタレントと、芸人は完全に棲み分けられてしまったわけです。
そんな中でも、結成50周年間近の、昭和のいる・こいるの芸については、もしかしたら若い世代でもご存知かもしれません。
『昭和のいる・こいる ヘーヘーホーホー40年!』には、彼らの漫才が5本と、高田文夫、松村邦洋らとともに写真で40年を振り返る思い出話が収録されています。
デビュー以来、向かって右側が、年上の「のいる」。左が「こいる」

のいるが時節柄の話題でなにか話し、こいるがそれに、一見不まじめで無責任な相槌をうつ漫才です。
基本的に、こいるは早口で小刻みに同じ言葉を繰り返します。
それが、タイトルにもある「へーへーホーホー」です。
そして、時々話を脱線させ、笑いを取ります。
のいるの話は、その時々で変わりますが、こいるの相槌は、たぶん不変です(笑)
いつもこんなパターンです。
まあ、何でもいいや
じゃあ、しょうがねぇや
ヤな話だねえ、へーっ
そうだ、そうだ、な。
どもすんませんね。ヘヘヘヘホホホホ
とりあえず謝っとこ

健康のためなら命なんかいりませんから
しょうがねえ、しょうがねえ
あたりめーだ、そりゃーな
人の痛み?人の痛みなんかわかんないよね。俺なんか酔っ払ったら自分の痛みもわかんないもん
飲みに行く時は(マイクの近くで声を潜めて)いいとこしか行きません
関係ねえ、関係ねえ、関係ねえ、関係ねえ、関係ねえ
(キミは自分の意見がないのかと言われ)なにもねぇな
(自分の仕事に誇りはないのかと言われ)それほどの仕事じゃねぇもん
他愛無い漫才ですが、実は他愛無い不変の芸だからこそ、マニアからはこんにち様式美のような評価を受けているわけです。
昭和のいる・こいるのここがすごいよ
まず、何より安心してみていられるのは、彼らの漫才には、特定の人のこき下ろし、人の弱点のあげつらい、ドツキ合いなどは、一切ありません。
それらは、それら自体が刺激が強いだけでなく、すべった場合、目も当てられないのです。
相方を蹴っ飛ばしてたおしても、客に受けなかったらどうでしょう。
悲惨ですよね。ただの暴力現場になってしまいます。
それは、芸人がその後、また盛り上げるのが大変だというだけではありません。
何より、観ている側に、「ウケてない、なんか冷えた雰囲気」と心配をかけてしまいます。
つまんない芸人は、観客のほうが気を使いますよね。
その点、昭和のいる・こいるは、プロモーター(席亭)も、観客も安心して見ていられる安定した芸なのです。
昭和のいる・こいるによると、師匠の獅子てんや・瀬戸わんやの教えで、「子どもでも高齢者でもみんなが一緒に楽しめる芸」を崩したくない、という気持ちがあるそうです。
彼らはシモネタも一切ありませんからね。
次に、そのやりとりが、よく考えると深いのです。
一見、いい加減で無責任で他愛無い相槌なわけですが、実は、他人の話を聞く人間をシニカルにあらわしているのではないかと思いました。
人間なんて、みんな自分がサイコーと思ってるから、他人の話なんて、どんなに綺麗に相槌をうっていても、儀礼的なものであったり、心の中の本音は別だったりしますよね。
で、建前はご立派な一般論に、ときどき茶々を入れる。
これって、以前コント・レオナルドがやっていたやりとりと似ているんですね。
市民役(石倉三郎)が善良な市民で、レオナルド熊が社会の底辺の労働者なのですが、熊のほうが、為政者やマスコミに毒されない素朴な意見で、社会の常識に囚われている石倉三郎を突っ込む社会風刺ネタをやっていました。
政治的な話題こそありませんが、昭和のいる・こいるの芸は、「人間風刺」なのかもしれません。
そして、わざとらしいボケをしないのもいいですね。
ボケがバカバカしければ、おもいっきり突っ込めますが、作為的なギャグやボケ方は、逆に興ざめしてしまいます。
その点、昭和のいる・こいるは、上記のように、素朴で深い相槌ですから、そういうわざとらしさはありません。
ビートたけしのツービートですら、そのへんはかなわなかったからこそ、1976年に、ツービートを抑えてNHK漫才コンクールで最優秀賞を受賞したのでしょう。
ビートたけしは、当時悔しかったらしいですけどね。
でも、勝てなかったことで、ビートたけしは昭和のいる・こいるの漫才に勝つことを老後の生きがいにできるわけですから、若い時に宿題を残しておいたのはよかったのではないでしょうか。
1日中聞いていたら飽きるかもしれませんが、殺伐とした現代社会で、それらと無関係なきれいな漫才で、しばし浩然の気を養うのもいいかもしれません。
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